「いまさら」の先にある景色
「もう遅い」と思ってしまう
「いまさら、何かを始めるなんて、もう遅いかな」
そう思って、諦めていることってないですか。
いくつになって始めても遅くはない。
頭ではそうわかっていても、よほどの熱量がないと、新しい世界へ一歩踏み出すのってなかなか勇気がいりますよね。
私がタンゴを始めたのは、30歳でした。
アルゼンチンタンゴは、一応ダンスです。だから、もしプロを目指すなら、20代のほうが身体も動くし、パートナーも見つけやすい。そして何より、下積みに使える時間がたくさんあります。
10代から踊ってきた人の10年と、20代からの10年、30代からの10年。同じ「10年」でも、やっぱり少し違います。
35歳でブエノスアイレスへタンゴ留学をした私にとって、「ショータンゴを勉強したい」と思ったとき、年齢という壁はとても高く感じました。
「いまさら」は、私のコンプレックスだった
実際、ブエノスアイレスへ来てみると、タンゴショーのダンサーになるために大学で学んでいた人や、20代の頃から本格的に踊ってきた人がたくさんいました。
特別ダンス経験が豊富だったわけでもない私は、何度も思いました。
「いまさら、遅かったのかもしれない」
いつしか、踊り始めた年齢は私のコンプレックスになっていました。そして、踊りが思うように上達しないときには、「始めるのが遅かったから」と、その理由にすることもありました。
年上のミロンゲーラたちが教えてくれたこと
でも、ブエノスアイレスで踊り続けているうちに、少しずつ気持ちが変わっていきました。
きっかけは、年上のミロンゲーラ(タンゴの社交場ミロンガを楽しむ女性)達。
若い頃のような、弾けるような若さはもう戻ってきません。それはどうしたって仕方がない。
でも、私がこれから進んでいく道の先には、
「ああ、こんなふうになりたい」
と思わせてくれる女性たちが、たくさんいたのです。
艶やかな白髪。
筋の浮いた脚。
すっと伸びた肩のライン。
そのすべてが、歳を重ねながら磨き上げてきた、大人の女性の美しさに見えました。
若い人にはまだない、エレガントな佇まい。
ちょっとした所作や、人との接し方。
踊っていないときでさえ、素敵だなと思わせる何かがある。
そんな女性たちを見ているうちに、私は、タンゴはただ「上手に踊ること」だけではないのだと知りました。
踊ることは、もちろん大切。
でも、それだけではなくて、その人の在り方まで少しずつ磨いてくれるものなのかもしれません。
もし、あと50年あるとしたら
そう考えるようになってから、私はときどき思います。何かを始めるのに、本当に「遅い」ということはあるのだろうか、と。
私たちは、いつか必ず死んでしまいます。それが明日なのか、50年後なのかは誰にもわかりません。
でも、もし50年後だとしたら。
今日始めたって、あと50年も楽しめる。
そう考えると、「もう遅い」と決めてしまうのは、なんだかもったいない気がします。そもそも、遅いか早いかを決めているのは、残された時間の長さではないのかもしれません。
「誰かと同じ場所を目指さなくてはいけない」
そんな思い込みが、私たちに「遅い」と感じさせているのではないでしょうか。

同じ場所にいても、見ている景色は違う
毎年8月、ブエノスアイレスでは、タンゴ世界選手権が開催されます。世界中で活躍するタンゴダンサーや、たくさんのタンゴ愛好家たちが集まる、大きな大会です。
海外から出場する人たちの中には、飛行機代を払い、時間をつくり、日々練習を重ねてブエノスアイレスまでやって来る人もたくさんいます。
出場するからには、少しでも上へ。
できることなら、頂点へ。
そう思う人がいるのは、とても自然なことだと思います。
一方で、ブエノスアイレスで日々タンゴを楽しんでいる愛好家たちにとって、この大会は少し違った顔を持っています。
毎年やってくる、タンゴのお祭り。
知っている人に会って、踊って、応援して、みんなで盛り上がる。そんな季節限定のイベントとして楽しんでいる人もたくさんいます。
同じ舞台を見て、
同じ音楽を聴いて、
同じ時間を過ごしている。
それでも、そこに何を見るかは人それぞれです。
頂点を見る人もいれば、
季節を見る人もいる。
ただ、自分がこれから見たい景色がある
もしかしたら人生も、同じなのかもしれません。
誰かが20歳で始めたことを、40歳から始める。
誰かがプロを目指している場所で、ただ心から楽しむことを目指す。
同じことをしていても、見ている景色は違います。
そう考えたら、「いまさら」なんて、本当はないのかもしれません。早いも、遅いもない。
ただ、自分がこれから見たい景色があるだけ。
それではみなさま。
¡Abrazo grande!(あなたに大きな抱擁を。)

[この記事を書いた人]AKANE
タンゴライフアドバイザー・タンゴダンサー・講師
1980年生まれ。日本での会社勤めを経て、35歳で南米アルゼンチン・ブエノスアイレスへタンゴ留学。本場のタンゴから“身体と心のコミュニケーション”の豊かさに魅せられる。
タンゴを通じて「抱擁・リード・呼吸・間(ま)・非言語のやりとり」の哲学に触れ、それを「パートナーとの関係性」「日常の愛情表現」「夫婦の時間」「男女のコミュニケーション」の視点で読み解けないか日々妄想中。
ウナタレでは、アルゼンチンタンゴの抱擁・会話・距離感を通じて学んだ、自分と大切な人との関係を見つめ直す“気づきの時間”をお届けしたいと思っています。
私の好きなブエノスアイレス
https://akanetanguera.com/