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私と動物たちとアート

チャムとの別れ

1年以上預かっていた次女の猫チャムが帰って行ったのは1月の始め。もう自分で動物を飼うことは諦めていたので、思いがけず押しつけられたチャムとの暮らしを私は結構楽しんでいた。子供の頃には何度か猫を飼ったこともあるが、昔の猫たちは出入り自由で半分外猫状態。最後はどこかへ姿をくらましてしまうのが常だったので、こうして猫がずっと家の中にいるのは初めてだった。この子とはどうも相性が悪くて、はじめはお互いに牽制し合っていたのだが、1年も一緒にいるとすっかり仲良くなって、夜も布団の中に入ってくるようになっていた。

チャムはやって来たのも突然だったが、帰るのも突然だった。ある日娘が「チャムを迎えに来た」と前触れなしにやって来て、名残を惜しむ間も無く、買ったばかりのロイヤルカナンのフードとトイレ用の砂とトイレとチュールを持って、チャムとともに風のように去っていったのだ。この時、私は生まれて初めてペットとの生き別れを経験した。災害などでやむなくペットと離れ離れになった人たちも、こんな気持ちだったんだなぁ。ましてペットを亡くすのは本当に辛い。毎晩仕事から帰ると「ニャー」と玄関まで迎えに来ていた子がもういない。朝起こしに来ることも、夜布団に入って来ることももうない。これはなかなかに寂しいものであった。

その時私が何をしたかといえば、チャムの絵を描きまくった。ペットの肖像画家をやっていてよかったと、これ程思ったことはない。スマホの中にある写真を眺めて寂しがったり嘆いたりするのではなく、描くことで慰められた。出来上がった絵を眺めると、そこにいるのはアートに変身したチャム。「うん、可愛い」「よく出来た」と自画自賛しながら日々眺めているうちに「猫のいない生活」にも慣れてきた。

ペットロスを癒すのはアート

日本画に出会ったのは2019年、62歳の時のことだった。習い始めて最初に描いたのは亡くなった愛犬アレックスだった。10年以上前に虹の橋を渡ったアレックスを絵の中で再現しようとしたのが始まりだったのだ。先生は私が長年墨絵を教えていることを知っていたので、絵具の使い方や箔の貼り方を教えてくれるだけで、後は私のすることを面白がって見ていた。

1作目を描いていた時、「構図が面白い」「色彩感覚が非凡だ」と先生に褒められ、調子に乗って2作目も3作目もアレックスを描いた。日本画では最初に下絵をデッサンするのだが、デッサンをしていると、不思議なことにアレックスの骨格や筋肉や感触をありありと思い出す。写真という平面の中にいたアレックスが頭の中で立体になっていくのだ。その骨格や筋肉を感じながらデッサンをしていく。いくつかの工程を経ていよいよ色を載せると、ユニークな色遣いの絵が出来上がっていく。パネルの中のアレックスは、新しい命を吹き込まれて嬉しそうだった。おかえり、アレックス。

そんな風に次々とアレックスや身近な友だちのペットを描いていくうちに、自分が動物をそっくりに描くことが得意なことに気づいた。何より動物を描くのが大好きな自分がいた。描いていると魂が喜んでいるのがわかった。それは長い時間かかってついに見つけた魂の仕事という感じだった。私はそれまで30年以上墨絵を続けていて教えてもいるが、墨絵では決して味わうことのできなかった手応えだった。私は自然発生的に「ペットの肖像画家」になった。絵描になろうなんて思っていなかったのに、まさに天から降ってきたような仕事だった。

肖像画は通常、写真を数枚いただいて、それを基に描く。名前や性別、年齢や性格なども教えていただく。そうすることでイメージが湧いて、その子とお話ししながら書けるからである。肖像画だから顔や姿形はそっくりに描く。でも色はポップに。そのバランスを見ながら仕上げるのだが、描き込んでいって絵を眺めた時「可愛い!」と思わず声が出たら、それを完成の合図としている。完成すると絵の中のワンちゃん・ネコちゃんが微笑むのだ。

ペットの肖像画を仕事にして以来、これまで50匹以上の肖像画を描かせていただいたが、半数は元気な子、半数は虹の橋を渡った子だった。今の時代、スマホでキレイな写真や動画がいくらでも撮れるが、絵画の良さはそこにもう一捻り入れてその子を別次元のものに変身させられることではないかと思う。特に亡くなった子の場合、飼い主さんにとって写真は時に生々しく悲しいものに写る。さらに写真立てに入れた写真は時間とともに色褪せていく。でも、絵は色褪せないのだ。それどころか、新しい命を吹き込まれて生き生き輝く。壁に飾れるアートとしてずっとそばに置いておくことができるのだ。だから私もアレックスやチャムの絵を常にハッピーな気持ちで眺めることができる。このハッピーな気持ちを届けるのが、残りの私の命の使い方なのだと思う。

やまざきゆりこ


[この記事を書いた人]やまざき ゆりこ

娘2人がまだ幼い30代前半のときに在宅ワークができるという理由でコピーライターになる。同時期に、伯母の勧めで書と墨絵を始め、以来文章を書くことと絵を描くことがライフワークに。6年前、思いつきで始めた日本画で色の世界にハマり、コロナ禍のおうち時間に身近な動物を描いていたらいつの間にかペットの肖像画家に。57歳で熟年離婚。現在はフリーペーパーのコピーライターをしながら、オーダー絵画の制作に勤しんでいる。着物好き、アート好き、美しいものが好きな1957年生まれ。

墨絵&日本画 梨水
http://risui-sumie.sakura.ne.jp/wp/

◆コラムの感想やコラムニストへのメッセージはウナタレ 「友の会」コラムニストの部屋にて。
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