ウナタレお悩み相談室〜熟した大人の恋愛観〜
お悩み:
新卒以来ずっと同じ製造会社勤務の49歳。30歳で同じ職場の一歳先輩と結婚したものの、生活習慣や義理親との距離感が合わず3年で離婚しました。今も独身です。子どもはいません。
やりがいある仕事に恵まれていて、趣味もあり十分な毎日だとは思います。ただ、時々無性に寂しくなることがあります。このまま生涯ひとりで過ごすのかと思うと怖くなることもあります。今からでも積極的に婚活をしたほうがいいでしょうか。それとも今の生活を大事にしたほうがいいのでしょうか。(Y美)
答え:
Y美さん、ずっと同じ会社で勤め続けているとのこと。まずはそのことを称賛させてくいださい。我々世代は就職氷河期になる頃、世間が何やら雲行き怪しい時期に大学を卒業しています。社会に出てまもなく山一證券は破綻し、ほどなくリーマンショック。この頃の上の世代は、20代の社員を丁寧に教育する余裕もなく、とにかく自力で会社の中でもがいて来たわけで。そんな時代で25年以上、同じ会社でしっかりと仕事を全うしているY美さんが眩しいです。
一度は結婚して誰かと生活を共にし、人生をすり合わせることの難しさを経験してきたY美さんのことですから、甘い夢だけを見て再婚を考えているわけではないのでしょう。時々襲ってくる一人の怖さや心細さと、結婚の面倒くささを天秤にかけているのだと思います。私も二回も結婚と離婚をしておいて言うのもなんですが、あんな大変なことをまた何でやらなければならないのかと思っても不思議ではありません。でも寂しい時だってありますよね。
人間も半世紀生きてくると、それなりに十分な経験と自分との付き合い方のルールもできています。これは大事、ここは譲れるけど、あれは我慢できないなど日々の生活の中で自分なりの快適さを作り上げています。一方で結婚となると、それらの自分軸の価値観を相手とすり合わせることが必須になってきます。一度結婚経験のあるY美さんも、これがネックになっていますよね。
かといって結婚を想像できる相手のいない時点では、一体何を提示して何を話し合えば、理想的なパートナーシップを結べるかがわかりませんよね。いや、私だって今から誰かと人生を共にしようと思った時に、何を相手に確認しなきゃいけないのか、そのリストアップにさえ戸惑うと思います。
そんな悩める我々(勝手にこちら側にひっぱってごめんなさいですが)に、ケーススタディを紹介させてください。Netflixオリジナルで制作された『あいの里』という恋愛リアリティショーです。
何を今さら恋愛リアリティショーか〜とがっかりしたかもしれませんが、これは、35歳以上の大人の恋愛なのです。え〜っ35歳か〜とがっかりしないでください。なんと60歳オーバーの出演男女もいるのです。60ですよ?私だってまだ年下ですよ。
この出演者がどれくらい台本上の演出で成り立っているかはさておき、繰り広げられる恋愛と婚活模様には、大変痺れます。「最後の恋」がしたいだけなのか、それとも「残りの人生のパートナー」を探したいのかという、還暦ならではの熟しまくった人生観をぶつけている番組です。
なかでも、離婚歴があり、子どもがいるような人はかなりシビアに話を深めています。相手の経済状況、資産の量を知らなければ“法的な責任”のある結婚は難しい(つまりお金のない相手に自分の遺産をあげるのではなく子供に継がせたい)といった身も蓋もないお金の話があり。
また身体的にセックスが難しい年齢ならではで、夜の生活は何を求めるのかという生々しい話まで。ついには、年下の男性とちょっと上手く行きそうになっても「彼の子供は一生産んであげられないから」という理由で、結婚相手として見てはいけないのではないかという葛藤もあり。ここまであからさまに、付き合う前から、もっといえば恋愛感情なんてない状況から詳らかにしていくという恐ろしい番組です。
またこの番組の秀逸さは、他の恋愛リアリティショーのようにバカンスなど非日常で恋をするのではなく、田舎の古民家を改装しながら全員一緒に住んで、食事を作り、畑を耕して生活するところです。日常生活の細かな部分がしっかり見えるわけです。料理や掃除がどれくらいできるかを、しっかり見極めていきながら、「自分は何を相手に求めるか」をいう自問自答できるシチュエーションになっています。
料理はできなくてもいいけど、整頓できないのはいやとか、共同作業の時にどれだけ他人に気を配れているかを見てしまうなど、自分が一緒に生活する上で、相手の何が気になるのかという自分の内側も明らかになっていきます。
30代のカップルが誕生しているキラキラ感とは全く別の角度で、実直に渋めに相手を見ている50代と60代。このリアルなやりとりに、「自分だったら何を相手に聞くかな」と、頼まれもしないのに出演者の気持ちになって考えていることでしょう。
最終的に、この熟年たちがどうなったかは番組を見てほしいのですが、みな一様に「これまでの人生で大事だったことを大事に思ってくれる相手かどうか」が最後の問いになっていたような、ウナタレ世代にはしみじみ来ちゃう番組です。
Y美さんは、これまでしっかりと働き続け、仕事にもプライベートにも十分満足している。でも「時々襲ってくる寂しさ」が一体何なのか、何をすれば解消できるのか。この番組を見ながら考えてみてもいいかもしれません。
結婚相手がいたらそれが解消できるとしたら、次は何を相手に望むのかをもう少し突き詰めて考えるきっかけにもなるでしょう。さらに言えば、その寂しさはもしかしたら結婚では解消できない種類のものかもしれません。それがわかってから、再婚のための婚活をはじめてもよいのではないでしょうか。私たちはもう子供を産まなきゃというプレッシャーからも解放され、何者かになることを強いられる若い人たちの苦しみからは一抜けた世代です。人生の怖さや寂しさを共感しあえるのは、何もパートナーだけではないのかもしれません。何か自分にとって必要なのか。そんな自分へのQ &Aを、この番組を見ながらつくるのもきっとよい心の準備になると思います。
自分本位に自分の人生を考える。それをぜひ試してみてくださいね。Y美さんがもっともっと幸せだと実感できますように。
[この記事を書いた人]渋谷 ゆう子
香川県出身。大妻女子大学文学部卒。株式会社ノモス代表取締役。音楽プロデューサー。文筆家。クラシック音楽を中心とした音源制作のほか、音響メーカーのコンサルティング、ラジオ出演等を行う。音楽誌オーディオ雑誌に寄稿多数。
プライベートでは離婚歴2回、父親の違う二男一女を育てる年季の入ったシングルマザー。上の二人は成人しているが、小学生の末子もいる現役子育て世代。目下の悩みは“命の母”の辞め時。更年期を生きる友人たちとワインを飲みながらの情報交換が生き甲斐である。
著書に『ウィーン・フィルの哲学〜至高の楽団はなぜ経営母体を持たないのか』(NHK出版)、『名曲の裏側: クラシック音楽家のヤバすぎる人生 』(ポプラ新書 )がある。
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