「踊ってくれないなんて、ひどい」——深夜のミロンガで学んだこと。
深夜2時すぎのミロンガ(タンゴの社交場)の入り口で、グレイヘアのよく映えた女性が、真紅のネイルの指でタバコをくゆらせていた。
「踊ってくれないなんて、ひどい」
口を尖らせて、彼女より20歳は若いであろう男性に、ワルツを踊ってくれなかったと拗ねた口調で責めていた。
その姿が、妙に可愛かった。
誕生日のワルツは、少し特別な夜
ミロンガでは、有名なダンサーや常連客の誕生日に、特別にワルツを踊る催しがあります。誕生日の人が女性なら、フロアを数分間貸し切り、彼女とよく踊る男性たちが数人出てきて、彼女を取り合って踊るのです。
ブエノスアイレスのミロンゲーラ(ミロンガに通う女性)にとって、少し特別な夜。
若い彼は、そのワルツに参加しなかったらしい。
だから彼女は、拗ねていた。
年齢を重ねると、感情を抑えなければいけないのだろうか
日本ではある年齢を超えると、嫉妬や恋愛感情、甘えや女っぽさを表に出すことが、なんとなくタブーとされがちではないでしょうか。
特に女性は、落ち着いていること、空気を読むこと、または母として振る舞うことを、どこかで求められていると感じることがある。
20代の頃と何も変わったつもりはないのに、時が過ぎたというだけで、感情の起伏を抑えて生きている。
—そんな自分に気づくことはありませんか。
男性に嫉妬すること。ワクワクと期待すること。恋愛相談や、カフェで何時間もおしゃべりすること。着飾って、外出すること。
年齢を重ねたって、私たちは女性であることに変わりなく、人生の当事者だ。

彼女は、若さにしがみついていなかった
あの夜の彼女は、若づくりしている感じはなかった。
グレイヘアも、目尻の皺も、隠すどころか魅力的だった。
それでも、拗ねる姿にはちゃんと”女っぽさ”があったのです。
私はそういうポルテーニャ(ブエノスアイレスの女性)を見るたびに、少し安心します。年齢を重ねても、感情を封じ込めなくていいのだと。
恋をして、拗ねて、期待して、時には傷つく。
そうやって、人生の自分の席に座り続けて譲らない。それが、生きるということなのかもしれません。
深夜のミロンガの入り口で、タバコをくゆらせながら拗ねていた彼女は、なんだかとても自由で、だからこそ、美しく見えた。
それではみなさま。
¡Abrazo grande!(あなたに大きな抱擁を。)

[この記事を書いた人]AKANE
タンゴライフアドバイザー・タンゴダンサー・講師
1980年生まれ。日本での会社勤めを経て、35歳で南米アルゼンチン・ブエノスアイレスへタンゴ留学。本場のタンゴから“身体と心のコミュニケーション”の豊かさに魅せられる。
タンゴを通じて「抱擁・リード・呼吸・間(ま)・非言語のやりとり」の哲学に触れ、それを「パートナーとの関係性」「日常の愛情表現」「夫婦の時間」「男女のコミュニケーション」の視点で読み解けないか日々妄想中。
ウナタレでは、アルゼンチンタンゴの抱擁・会話・距離感を通じて学んだ、自分と大切な人との関係を見つめ直す“気づきの時間”をお届けしたいと思っています。
私の好きなブエノスアイレス
https://akanetanguera.com/