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48歳の抵抗~「私にライトが当たらない!」でへこまぬために~

若いって、キラキラしてる。それは事実。だから、「スター」で人気爆発といえば多くのジャンルで若い人。

若いのに才能あふれる人って、本当に輝いてる。限界を知らず、上を目指して挑戦を続ける若者って素晴らしい! 

じゃあ、歳をとったらその輝きはなくなるの? 主役は若い人に譲って、自分は脇役に徹してサポートしたり、一線を退いて指導にまわったりするしかないの?

こんにちは、エンタメ水先案内人の仲野マリです。実は私、得意なのは歌舞伎だけじゃない! 今日は歌舞伎から離れて、朝ドラの話。

名女優につきつけられた「ダブルヒロイン」の実情……

1990年に放送された「京、ふたり」というNHKの朝の連続ドラマを知っていますか?

京都の老舗の漬物屋が舞台で、後継者問題を軸に、店を継ごうとする20歳の娘と、離婚で長く店から離れていたその母親との葛藤と絆を描いた作品です。

娘役は畠田理恵(今は将棋の羽生善治さんの奥さんです)、母親役は山本陽子で、「ダブル・ヒロイン」と銘打たれていました。

同じ朝ドラの「おしん」では、主人公の幼少期から晩年までを、小林綾子・田中裕子・乙羽信子の3人で分割して主演していましたが、「京、ふたり」は最初から二人が母娘として登場します。

今でこそ朝ドラ主人公に実力派女優が多く出演するものの、このシリーズは基本的に「主人公には経験の浅い若い女性をオーディションで抜擢、脇をベテランが固める」という形がとられています。

ですからこの回でいえば、畠田理恵が主演、山本陽子が助演でいいはずなのに、なぜ「ダブルヒロイン」なのか。

竹山洋の脚本は、後継者不足で危機を迎えた老舗を継ごうとする若い女性の気概とともに、なぜ後継者不足になってしまうのか、

その中で「嫁なら家に仕えるのが当然」という因習に悩んだ多くの女性たちの代表として、離婚して家を出た母親を「もう一人のヒロイン」として据え、

「店を捨て、子を置いて出た身勝手な嫁」と後ろ指さされてきた女性の心情を丁寧に描いています。

山本陽子は1942年生まれ。63年に女優デビューし、「黒革の手帳」(1982)や「白い影」「白い巨塔」などの「白いシリーズ」(1973~)などの代表作をはじめ、

数えきれないほどの映画やドラマに出演、田宮二郎や田村正和などを相手に強く、悲しく、一途な女性を魅力的に演じてきた大女優です。

「京、ふたり」放送時、彼女はすでに48歳。「おしん」のような形以外で「主人公」になることはできません。

でも、山本陽子という女優は「格」として「主人公」でなければならなかったのでしょう。

制作側もそのあたりに配慮して「ダブルヒロイン」としたのではないでしょうか。山本陽子にも、「主演女優」としての矜持があったと思います。

インタビューで、本音がぽろり

今もそうですが、NHKでは朝ドラや大河ドラマの出演者を朝の番組などに呼んでインタビューをしますよね。当時も山本陽子が出演した時がありました。その中で、彼女は思わず本音を漏らします。

「私には照明が当たらない」

それまでは主演女優として、すべてのカメラは自分を追い、すべてのライトが自分を美しく見せるように照らしてくれていたのに、この現場では違った、というのです。

「京、ふたり」で「ライト」をほしいままに受けたのは、畠田理恵だったのです。

ダブル・ヒロインといいながら、自分は「中心」ではない。彼女がつきつけられた、残酷な事実でした。その結果、思わぬことが起きました。

「化粧などにどんなに気をつけても、(ライトが真正面から当たらなければ、顔に)影ができてしまうんですよ」

みなさんは、山本陽子の気持ち、わかりますか?

48歳ですよ。ただでさえ、自分の“衰え”は身に染みているはずです。

それでも「往年の美しさ」を思い描いて憧れてくれるたくさんのファンの人がいる。

だから、自分はどこまでも美しさを保ちたい。最高の自分を演出したい。そのために、メイクさんも照明さんもカメラさんも、すべてを味方につけようと思っていたのに……。

でもね、彼女は嘆いてばかりで終わったりしませんでした。

現実は現実として受け入れ、そこから自分をどう見せるかを工夫し出したのです。

ライトが当たらないなら当たらないなりの、メイクだったり立ち位置だったり。そして何より、演技です。これまで自らが培ってきた実力で、「ダブル・ヒロイン」を完遂しました。

事実、私はほとんど畠田理恵の印象がない。「京、ふたり」を思い出そうとすると、山本陽子がエプロンかけて、漬物つけているシーンが浮かんできます。

人生の「主人公」は自分!

48歳って、けっこうターニングポイントなんだと思うんです。男性でも石川達三が「48歳の抵抗」っていう小説を書いてますしね。

自分の中に「まだまだ」という気持ちと「そろそろ」という気持ちが行ったり来たりする。

そんなときに、山本陽子を思い出してください! 人生の主人公は自分! 外からのライトなんかなくたって、内側からいくらでも光り輝く!

主人公の「格」をもって、毎日を過ごしましょう!

仲野マリ


[この記事を書いた人]仲野マリ(Mari Nakano)

エンタメ水先案内人 1958年東京生まれ、早稲田大学第一文学部卒。
映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、現在は歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、年120本以上の舞台を観劇。おもにエンタメ系の劇評やレビューを書く。坂東玉三郎、松本幸四郎、市川海老蔵、市川猿之助、片岡愛之助などの歌舞伎俳優や、宝塚スター、著名ダンサーなど、インタビュー歴多数。作品のテーマに踏み込みつつ観客の視点も重視した劇評に定評がある。2001年第11回日本ダンス評論賞(財団法人日本舞台芸術振興会/新書館ダンスマガジン)佳作入賞。日本劇作家協会会員。

書籍「恋と歌舞伎と女の事情」

電子書籍「ギモンから紐解く!歌舞伎を観てみたい人のすぐに役立つビギナーズガイド」

YouTube 「きっと歌舞伎が好きになる!」(毎週火曜16時配信)

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