白髪の女性が美しかった。タンゴが変えた、加齢へのまなざし。
鏡を見るたびに、ため息をついてしまう日がある。
ほうれい線、白髪、たるんできた輪郭…
「ああ、またひとつ増えたな」と。
ウナタレ読者の皆さんは、どうでしょうか。
加齢とは「できることが減る過程」なのか
日本社会では、年齢を重ねることはなんとなく「マイナス」として捉えられがちです。
スポーツ選手はピークを過ぎれば引退を迫られ、モデルや俳優は若い世代にバトンを渡していく。私の経験上、IT業界では40代を過ぎると転職が途端に難しくなると言われています。
「若さ」が期間限定の武器であることは、頭ではわかっている。それでも、だんだんとその武器を手放さなければならない自分に、どこかあがいてしまう。
そういう気持ち、ありませんか。
美容医療が一大産業になっているのも、そういう背景からでしょう。
ちなみにアルゼンチンも整形大国で、なんと保険適用で顔面のお直しが可能です。あの自己肯定感の高いアルゼンチン人たちも、いろんな部分をオープンにお直ししていて、その話題は事欠かない…というのは、また別の話。
タンゴでは、年齢は「減点」にならない
多くの分野で「若さ」が優位性を持つのは確かです。
でも、すべての世界で同じ評価軸が当てはまるわけではない。
タンゴは、その数少ない例外のひとつだと、私は思っています。
アルゼンチンタンゴの世界では、「年齢が高いこと」は大きな不利になりません。
若いことは、もちろん素敵です。
でも、年齢を重ねた人ならではの美しさもまた、特別なものとして大切にされている。
問われるのは「何歳か」ではなく、「どんな時間を積み重ねてきたか」。
落ち着きのある佇まい。余裕のある呼吸。急がない、でも揺るがない軸。それらは、エレガントさとして高く評価されます。
たとえ動きが少なくても、音楽にそっと寄り添うような安定した踊りは、見る人の心に深く残る。華やかさやスピードだけが、ダンスの魅力ではないのです。
体型についても、同じです。
クラッシックバレエのように、細身の体型がすべてではない。
それよりも少し下半身に重みのある女性の方が、成熟した大人の色気を感じさせることがある、それがアルゼンチンタンゴ。
年齢も体型も、熟した果実のような甘みとして、その人の踊りに溶け込んでいくのです。

時間をかけてしか、育たないものがある
タンゴにおいて、年を重ねることは「衰退」ではありません。
体力は落ちても、経験から育まれるものは増えていく。
タンゴを心から愛する人たちは、真新しい美しさよりも、擦り切れるほど使い込まれたものの”こなれた愛着”を美しいと感じる人たちです。
だからこそ、年齢を重ねるほどに、その人にしか生み出せない深みが育っていく。ただそれは、自動的には訪れません。
意識を持って踊り続け、学び続けた人にこそ、年を重ねた報酬は届く。それはタンゴだけでなく、人生そのものでも言えることだと思います。
シワも、経験も。
一般的には「マイナス」として見られがちなもの。
でもタンゴの文脈では、それらは時間の蓄積として、輝きや若さとは違う種類の美しさへと変わっていきます。
評価の基準が変われば、加齢は強みになる。
タンゴの世界では、年齢は減点ではなく、深みとして積み重なっていくものなのです。
私が憧れるもの
美容医療で若く美しく変わっていく同世代の女性たちを見るたびに、ふと思うことがあります。
重ねてきた年月を「直して」しまうことへの、どこかもったいないような気持ち。
若さを手に入れる代わりに、その人がこれまで生きてきた時間の痕跡が消えてしまう、そんな寂しさ。
もちろん私自身も、あがいていないかといえば、嘘になります。「若さ」という武器を手放しつつある年代になって、鏡の前で複雑な気持ちになることは、まだある。
でも、タンゴを踊り続けているからこそ、加齢への恐れが少しずつ和らいでいく気がしています。
白髪の凜とした女性が、色気をたたえてしなやかに踊る姿に、思わず目を奪われてしまう。
あんな風に、年を重ねたい。
深く刻まれた表情のシワは、豊かな人生を歩んできた証。
ふっくらとした腰回りと、なだらかな肩のラインに寄り添うドレス。
丁寧に手入れされた白髪に、自分の顔を知り尽くしたメイク。
床に足をつくその一歩が人生を語り、一瞬ごとの所作に、その人の人間性が現れる。
だから私は、重ねてきた日々を、いつだって誇れる自分でありたい。
それではみなさま。
¡Abrazo grande!(あなたに大きな抱擁を。)

[この記事を書いた人]AKANE
タンゴライフアドバイザー・タンゴダンサー・講師
1980年生まれ。日本での会社勤めを経て、35歳で南米アルゼンチン・ブエノスアイレスへタンゴ留学。本場のタンゴから“身体と心のコミュニケーション”の豊かさに魅せられる。
タンゴを通じて「抱擁・リード・呼吸・間(ま)・非言語のやりとり」の哲学に触れ、それを「パートナーとの関係性」「日常の愛情表現」「夫婦の時間」「男女のコミュニケーション」の視点で読み解けないか日々妄想中。
ウナタレでは、アルゼンチンタンゴの抱擁・会話・距離感を通じて学んだ、自分と大切な人との関係を見つめ直す“気づきの時間”をお届けしたいと思っています。
私の好きなブエノスアイレス
https://akanetanguera.com/