続・口に出したら動き始めた
2月末に5年ぶりの個展を開催した。墨絵一筋だった私がポップな日本画の動物画に転向し、初個展を開いたのが2021年9月。その後、毎年二人展はやっていたけど、個展は5年ぶりである。今回「個展」と決めたのは、人生で1度くらい本気を出そうと思ったから。というのも、器用な私はこれまでの人生自分が持ち合わせている素質だけで楽しく生きてきちゃったのだ。だから本当の本気で何かに取り組んだことがなかった。
これまでみたいに二人展だったら画廊代が半分になるし、在廊日も分担できる。それに何より友達と一緒だと「楽しいからね」というのがあった。そもそも画家としての私の目的はペットの肖像画を描くことだから、展覧会で絵を売ろうというよりは「こんな絵を描きます」という肖像画の見本として見てもらえばいいと思っていたのだ。当然展示している絵は売れない。
でも、今回は本気なのだ。本気で画家として飛躍したいのだ。自分の世界観で画廊の中を満たして絵を売りたい。テーマを「犬と猫と赤い薔薇と」とし、肖像画では普段描かない赤い薔薇を犬や猫と一緒にたくさん描いた。いつもは花だけの絵は描かないけど、今回は赤い薔薇だけの絵を3点描いた。ポストカードもたくさん作った。勤め先の媒体に有料で広告も載せてもらった。そうだ、会場には本物の赤い薔薇も飾ろう。搬入の日、友だちに手伝ってもらって会場をディスプレイした。隅から隅まで自分の作品が並ぶ光景は素晴らしく気持ちいい。エネルギーが全然違うわ。
そんな意気込みで臨んだ初日、朝一番で「岩崎宏美さんからお花のお届けです」とゴージャスなお花が届いた。カサブランカやトルコキキョウ、カラーなど白いお花だけで構成されたアレンジメント。わぁ、こんな立派なお花をいただいたのは生まれて初めてだわ! 画廊の空間が一気に華やかになった。会期中は次々と友だちが来てくれて、それぞれがSNSで宣伝してくれた。みんなポストカードを連れて帰ってくれた。岩崎宏美さんも友だちと一緒に見に来てくれた。個展は大盛況のうちに終わった。
結果、どうなったかというと、絵が売れた。今まで経験したことのないほどの売り上げ。新築の家に飾りたいと旧作を求めてくれたり、広告を見て来てくださったご夫婦が飾ってある絵の1つをお迎えしてくれたり、新設する事務所に飾りたいと注文があったり、そのほかにもいくつか。「行列のできるペットの肖像画家」を目指していたら、ちょっとそれに近づいた。意識が変わるとここまで変わるのか。
翌日、大成功だった個展の余韻に浸りながら仕事に行く準備をしていたところに最近全然連絡が来ない次女からLINEが来た。「あなたの住んでいるマンションは私とM(長女)の名義になりました。つきましてはGWに売却するので4月中に引っ越し先を見つけてください」。はぁ???
私の住まいは別れた夫の名義だったのだ。離婚した時に住んでいた一戸建ては夫の名義だったけど、私が終生住んでいていいということで書面を取り交わしていた。でもある時彼が、代わりを買うから家を売りたいと言ってきて、私は「いいよ」と承諾したのだ。彼との間には信頼関係がある。私がチラと心配していたのは、再婚している彼が私より先に死んだ場合、奥さんに追い出されるかもということだった。でもまさか自分の娘に追い出されるとは。しかもこんなにいきなり!

流石の私も奈落の底に突き落とされた気持ちになったが、そんな状態でも普通に仕事ができてお昼ご飯もしっかり食べられて、夜には絵まで描いている神経の太さである。日頃からメンタルもフィジカルも強いと豪語していたけど、本当に図太いメンタル。こんな私に産んでくれた両親に心の底から感謝である。考えていたらあまりのことに段々面白くなってきちゃって、そのままFacebookに書こうと思ったけど、神経の細い友だちがこれを読んでショックを受けたら申し訳ないのでやめた。
この顛末はまだわからないんだけど、私が本気になったから物事が動いたのだとある人に言われ、確かにそうかもしれないと思った。だってこのタイミングだからね。でも今年の私はめちゃくちゃ追い風を受けているのだ。もし本当に引っ越すことになったら、きっとその方が良い理由があるのだ。ふん、こんなことには負けないわよ。私は忙しいんだからさ。
数日後、案外ケロッとしている私のところに、知らない電話番号から着信があった。いつもなら出ないんだけど、その時は何となく出た。すると、「梨水先生の作品を来年2月に上野の森美術館で開催する『全国選抜作家展』に出していただきたいのです」。わぉ、上がったり下がったり、なんて忙しい年なの!
というわけで、こうなりたいという希望を口に出し本気を出したらこんなことになっています。2026年はこの先一体どういうことになるのかしらね。


[この記事を書いた人]やまざき ゆりこ
娘2人がまだ幼い30代前半のときに在宅ワークができるという理由でコピーライターになる。同時期に、伯母の勧めで書と墨絵を始め、以来文章を書くことと絵を描くことがライフワークに。6年前、思いつきで始めた日本画で色の世界にハマり、コロナ禍のおうち時間に身近な動物を描いていたらいつの間にかペットの肖像画家に。57歳で熟年離婚。現在はフリーペーパーのコピーライターをしながら、オーダー絵画の制作に勤しんでいる。着物好き、アート好き、美しいものが好きな1957年生まれ。

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