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情熱のメンテナンス

最近、なんとなく調子が出ない。
そう感じることが増えた。

睡眠はそこそこ取っている。
食事もそれなりに気をつけている。
運動もなんとか続けてる。
特別つらいことがあったわけでもない。
なのに、朝目が覚めたときから体が重くて、起き上がるまでに時間がかかる。

前は、「やろう」と思えばすっと動けた。
でも今は、やりたい気持ちとは裏腹に体がついてこない。
なんだか理由もなく悲しくなって、しょんぼりしてしまう。
砂の上を走っているみたいな感覚、とでも言えばいいのか。
足は動かしているのに、ちっとも前に進まない。
体が重たくて鉛のよう。

ああ、これが年齢のせいかもしれない。
更年期というものが、じわじわと近づいているのかもしれない。

「ちゃんとしなきゃ」が、自分を苦しめていた

今まで、わたしは「気合い」でなんとかしてきた。
しんどくても踏ん張れば、翌日にはリセットされた。
疲れていても、好きなことへの情熱で気分を上げてエンジンをかけ直せた。
だから、「頑張れること」が私の強みだと思ってきた。

でも今は、頑張れば頑張るほど空回りすることがある。
「ちゃんとしなきゃ」と自分に言い聞かせるほど、それができない自分に心がしんどくなっていく。
以前は武器だったその言葉が、今は自分を縛る鎖になっていることに、ある日気がついた。
必要なのは、頑張ることではない。
できない自分を責めることでもない。

今、私はそういう時期だと知り、それよりも心が心地よく満たされることを探すこと。

タンゴが、わたしのメンテナンスだった

ブエノスアイレスに来て10年以上、タンゴを踊り続けている。
最初は、タンゴが私に特別な何かをくれると信じていた。この10年で、タンゴは私の人生を豊かにしてくれるものに変わった。

最近になって、ひとつの発見をした。
タンゴは、わたしにとっての「心のメンテナンス」のひとつでもあったということ。
ミロンガ(タンゴを踊る社交の場)に行って、音楽に身を委ねると、頭の中でぐるぐる回っていた雑音が、静かになっていく。
子どものこと、家のこと、仕事のこと。終わりの見えないタスクがいつも気になっていたのに、音楽の中にいる間だけ、するりとそういうものが消えていく。
そして、アブラッソ(タンゴで踊る際にパートナーとする抱擁)。
言葉がなくても、体が安心を思い出す。
「大丈夫だよ」「それでいいよ」と誰かに言われているような、あの感覚。
それが、踊り終わったあとのわたしの心をずいぶん軽くしてくれる。
タンゴは運動じゃない。心の栄養補給だ、とつくづく思う。

音楽と、触れ合うことの力

これは、感覚だけの話ではない。音楽には自律神経を整える力があることは、多くの研究でも言われている。好きな音楽を聴くだけで、心拍が落ち着き、気分が変わる。それがさらに体を動かすことと組み合わさると、効果は倍になる。
そして、人と触れ合うこと。
ハグをすると「オキシトシン」という物質が分泌される。幸福感や安心感をもたらし、ストレスを和らげてくれるホルモンだ。
子育て中のお母さんが赤ちゃんを抱くときに出る、あれと同じもの。

でも大人になるにつれて、わたしたちはどんどん「触れ合う機会」を失っていく。
だからこそ、必要なのだ。スキンシップの場を、意識的に作ること。

タンゴのアブラッソは、そういう意味でも、わたしには欠かせないものになっている。

情熱は、燃やすものじゃなくて育てるもの

「最近、いろんなものへの情熱が薄れてきた気がする」という声を、同世代の友人からよく聞く。
わかる、と思う。でも少し違うとも思っている。

情熱がなくなったわけではなく、メンテナンス不足で火が小さくなっているだけではないか。
薪をくべなければ、焚き火は小さくなる。でもそれは、火が死んだわけじゃない。
ちゃんと手を入れれば、またあたたかく燃える。情熱も、きっとそれと同じだ。

好きなことを続けるには、休むことも必要で、自分に栄養を与えることも大切。
むしろ、自分を満たすことなしに、動き続けることはできない。

自分を整えることがすべての始まりだと、最近、思うようになった。
情熱は、薪をくべて勢いよく燃やすものではなく、自分の時間をくべてゆっくり育てるものではないだろうか?

あなたの心を温めるものは、なんですか?

わたしにとってのメンテナンスは、タンゴだった。
音楽があって、アブラッソがあって、ミロンガの夜の空気がある。
それがわたしを静かに整えてくれる。

あなたにとっては、それは何だろう。
夕暮れ時の散歩かもしれない。好きな音楽を流しながらのコーヒータイムかもしれない。古い友人との他愛もないおしゃべりかもしれない。
ちょっと気分が乗らないな、なんてときは「頑張る」より、自分を「満たす」方法を探してみてほしい。

あなたの情熱の火は、消えていない。ただ、少し栄養が必要なだけだから。

それではみなさま。

¡Abrazo grande!(あなたに大きな抱擁を。)


[この記事を書いた人]AKANE

タンゴライフアドバイザー・タンゴダンサー・講師

1980年生まれ。日本での会社勤めを経て、35歳で南米アルゼンチン・ブエノスアイレスへタンゴ留学。本場のタンゴから“身体と心のコミュニケーション”の豊かさに魅せられる。

タンゴを通じて「抱擁・リード・呼吸・間(ま)・非言語のやりとり」の哲学に触れ、それを「パートナーとの関係性」「日常の愛情表現」「夫婦の時間」「男女のコミュニケーション」の視点で読み解けないか日々妄想中。

ウナタレでは、アルゼンチンタンゴの抱擁・会話・距離感を通じて学んだ、自分と大切な人との関係を見つめ直す“気づきの時間”をお届けしたいと思っています。

私の好きなブエノスアイレス
https://akanetanguera.com/

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