年齢が理由で諦めた、ただ1つのこと
ペットと暮らしている方は多いと思います。私もこれまでたくさんの犬や猫と暮らしてきました。両親も同居していた祖母も動物好きだったので、生まれた時にはすでに犬がいました。
茶色の雑種で名前はロビン。私にとっての犬はその子が初代で、10年前に亡くなった黒ラブのアレックスまで、深く関わった犬たちは全部で8頭。
その間に猫も3匹飼いました。空き地で子猫を拾ってきたり、交通事故で怪我をした猫を連れて帰ったり、とにかく常に色んな動物がいたのです。
十姉妹や文鳥も飼っていた。文鳥は13年も生きていて、最後はくちばしも爪も伸びて魔法使いみたいでした。
そんな環境で育ったのに、アレックスが死んで以来動物は飼っていません。
今でも犬や猫と暮らしたい気持ちはいっぱいなのですが、家を留守にしている時間が長いので、お留守番させるのが可哀想。
昔のように春になるとどこかに子猫がいる環境なら、きっと我慢できずに拾ってきちゃうと思うけど、幸か不幸かそういうチャンスもない。
それに今から飼うとしたら、下手すれば私の方が先に死んじゃうかも、とも思うのです。ペットを残して死んじゃうのもなぁ。
今まで、やりたいと思ったことを諦めたことはないと思う。
少なくとも、年齢が理由で諦めたものはありませんでした。仕事だって恋愛だって年齢は障害にならなかった。
でも、60代になった今、しみじみ思うのです。自分の年齢と生活環境を考えたら、もうペットは飼えない。そもそも保護犬や保護猫は年齢制限に引っかかって里親になれないし、子猫から育てるのは今の環境では無理。
アレックスを飼うとき、「この子が私の最後の犬になるだろう」と思ったけど、その通りになりました。
その短い命をお留守番で過ごさせるわけにはいかないから
動物のいる生活は本当に豊かです。彼らは愛そのもので、喜びも癒しも与えてくれます。でも動物たちを十分に知っているからこそ、彼らが「早く帰ってこないかなぁ」と飼い主を待っていることがわかります。
動物たちの命はあまりにも儚い。私が暮らした8頭の犬の中で一番長生きだったポメラニアンでさえ16歳7ヶ月でした。アレックスは15歳2ヶ月と2日。
最後の1年は1日が1ヶ月のような速さだった。その短い命をお留守番で過ごさせるわけにはいかないのです。
だから私はペットを諦めています。そして思い出すのはアレックスとの日々。どの子も可愛かったけど、私の最後の犬だったアレックスには特別な思いがあります。
大型犬を飼うのが夢だった。結婚してからは住宅事情から犬や猫を飼えなかったので、一戸建てを買ったらラブラドールを飼うと決めていました。
ラブは特別です。賢くてやさしくて頼りになる。アレックスは、子犬の時から老衰で死ぬまで、そして骨になっても可愛かった。
仕事をしながらの老犬介護は大変でした。下の世話なんてそりゃもう大変。最後の半年くらいはオムツ生活でしたが、オムツの脇からウンチが漏れちゃうんです。
仕事から帰るとリビングの床がウンチまみれということが何度あったことか。掃除をしながら「アレックスのお陰で部屋がキレイになったよ」と言いながらシャンプーしてね。
そういうことが度々起きて、まるで人間の老人介護と同じだと思っていました。
アレックスは枯れるように歳を取っていきました。最後の1週間は泣きそうになりながら仕事に行っていました。毎朝後ろ髪を引かれる思いで家を出て、定時になると大急ぎで帰路に着きます。
誰もいない家で1人で待っているアレックスを思うと居ても立ってもいられず、早く、早くと気持ちが急く。
ようやく家に着いてリビングに飛び込むと、アレックスは覚醒していて、見えているのかいないのかわからない白い瞳で私を見つめます。「ただいま。よく待っていてくれたね」。そんな繰り返しでした。
アレックスはいい子なので、私の仕事が休みの日に旅立ちました。私はちゃんと看取ることができたお陰で、悔いを残すことなく彼を見送ることができたのです。
それがあるから、動物を飼うことを諦められるのかもしれません。
そして、ペットを飼う代わりに、私は動物を絵に描いているのです。
[この記事を書いた人]やまざき ゆりこ
娘2人がまだ幼い30代前半のときに在宅ワークができるという理由でコピーライターになる。同時期に、伯母の勧めで書と墨絵を始め、以来文章を書くことと絵を描くことがライフワークに。6年前、思いつきで始めた日本画で色の世界にハマり、コロナ禍のおうち時間に身近な動物を描いていたらいつの間にかペットの肖像画家に。57歳で熟年離婚。現在はフリーペーパーのコピーライターをしながら、オーダー絵画の制作に勤しんでいる。着物好き、アート好き、美しいものが好きな1957年生まれ。
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