フランス人の元カレとの出会いと別れ
元カレと別れて3年。その後たまに会っていた別のフランス人とも最近はほとんど会っていなくて、フランスが足りない私であります。女は上書きだというけど、上書きされないまま3年を過ごしているので、たまに「面白い男だったなぁ」と元カレを思い出します。未練なんて1ミリもないんだけど、あの物語は実に面白かった。
フランス語を習い始めて3年経った頃、私は先生に片思いしていました。ハンサムで長身のフランス人。おまけに料理は上手だし、ナチュラルだし、ワインの蘊蓄を聞かせてくれるし、今まで関わってきた日本の男たちとはまるで違う。これこそが理想の男性、つまりフランス人男性がこの世でいちばん素晴らしい! でも彼は20歳も年下だし彼女もいるし、私は「私の」フランス人が欲しいと思って出会い系サイトに登録したのです。目指すは「イケメン・長身・フランス人」。
彼とはそこで知り合いました。何度かメールのやり取りをした後、「会ってみる?」ということになり、横浜のカフェで待ち合わせたのが最初でした。まあまあハンサムだし、身長は188センチ。イケメンで長身のフランス人じゃない?「フランス語はどのくらい勉強してるの?」とフランス語で聞かれ、「3年」と答えた後は、ずっと英語で話していたんだけど、何かの拍子に日本語になったらネイティブのようにペラペラじゃん。
それからは、メールは英語、会話は日本語、たまにフランス語という感じになったのですが、フランス語ってやっぱり特別な響きなのよね。「美味しい」とか「くそーっ」などの感情的・感覚的な場面ではつい母国語が出ちゃうんだけど、例えば「セ・ボン」は美味しいという意味もあるけど気持ちいいという意味もあるの。故にベッドでそれを聞くことがあるのですが、それがまたよろしかったりするわけです。もちろん「ジュ・テーム」もね。
ヨーロピアンは誰でも捻くれている部分があって、そこが好きなんだけど、日本人みたいに物事をストレートに捉えない。ニュースなんて基本疑ってかかってるから。そういう物の見方は勉強になりました。また、私は感覚的な人間だけど、彼はフランス人のくせに情緒的な部分がまるでない。それなのに、晩秋のある曇った日に枯葉が枝から落ちる音を聞いて「この音好き。フランスを思い出す」なんて言うの。私にはその音は聞こえなかった。そんな違いの数々が私にはとても新鮮だったのです。
彼はずるい男で、一緒に暮らしている人がいるのを半年くらい黙っていてね。それが分かった時に私は別れると言ったんだけど、彼は別れたくないと言い、どんなに避けても追いかけてきました。毎朝「声が聞きたかったから」と電話してきて、「嫌い」と言っても「嫌われても好きだから」なんて言うのよ。何度嫌いだと言っても好きだと言う。それが快感で、なんかズルズルと6年半も付き合ってしまいました。
あの粘りはすごいと思う。一緒に住んでいる彼女も私も手放さないという強い意志。粘りっ気ゼロの私は断り続ける粘りもないので危うく乗せられそうになるんだけど、実際彼のあの磁力に敵う人はそうはいないと思うわ。変な奴だけど実に魅力的な男でした。
最後の2年ほどは彼の仕事も手伝っていたんだけど、頼まれるとついやってしまう私の人の良さにつけ込んで、彼は巧みに仕事の話を差し込んでくるの。で、段々と私は彼の秘書のような感じになっていって、なんだかなぁと思っていたところに彼が地雷を踏んだ。詳細は端折りますが、それが決定打となりついに別れました。
時はコロナ禍が始まった2020年。どのみち物理的に会えなくなっていたと思う。出会った時は、うちから50キロ離れた場所に住む彼の職場がなんとうちのすぐそばにあって、週に何度もうちの近くに来ていたり、私の仕事が今よりずっと暇で会う時間がたっぷりあったりと、2人が会えるように物事が回っていました。でも、うちの近くにあった彼の仕事がなくなり、私の仕事が忙しくなって週に1度しか会えなくなり、やがてコロナ禍になって、今度は会えないように状況が変わっていった。それも面白いなぁと思うのよ。
[この記事を書いた人]やまざき ゆりこ
娘2人がまだ幼い30代前半のときに在宅ワークができるという理由でコピーライターになる。同時期に、伯母の勧めで書と墨絵を始め、以来文章を書くことと絵を描くことがライフワークに。6年前、思いつきで始めた日本画で色の世界にハマり、コロナ禍のおうち時間に身近な動物を描いていたらいつの間にかペットの肖像画家に。57歳で熟年離婚。現在はフリーペーパーのコピーライターをしながら、オーダー絵画の制作に勤しんでいる。着物好き、アート好き、美しいものが好きな1957年生まれ。
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