更年期ダンジョンと加味逍遙散
ぼくらの受験戦争
ついに私もその日が来た。
更年期障害と思われる症状(不眠、動悸、気分のアップダウン、怒り、イライラ)が、日に日に強まる。
激昂とはこの事かと思うぐらい突然カッと腹が立つ。
この気分のアップダウン、まさに。アレだ。
特に、子供とのコミュニケーションでそれは顕著に現れた。
我が家には今、残り2カ月に迫った中学受験生の息子がいる。
経験者ならおわかりであろうが、この中受という魔のライフイベントは、平和な家庭にあらゆる内紛やクライシスを引き起こす。
断っておくが私は決して教育熱心な母親でも全くなく、夫も私も共に学歴を問われるような職業でもないため「〇〇学園に絶対入ってもらわなきゃいけないざますのよ!」というような思考も全くない。
ただ、子供もそういった家庭に生まれたごく普通の小学生男子なので、自ら勉強をするような受験に向いている能力も全くなく、当たり前にそこには歪みが生じていく。
こちらは更年期、あちらは反抗期、互いの思想と正義をぶつけ合いながら、歪みを埋めて中学受験のタスクを統治しなければならないわけだから、毎日のように紛争が勃発する。
反抗期の男子もいろんなタイプがいると思うのだが、うちの息子は揚げ足を取りながら優位に立とうとする一番痛々しい、いわゆる「ひろゆき」タイプのため、また腹立たしさもひとしおだ。
口論が度を過ぎると、4歳くらいまで、可愛くて、可愛くて、抱きしめて寝ていた我が子に「くっそばばあ!こんな家出て行ってやる!」と吠えられる。可愛さ余って憎さ百倍とはこのことかと「クソガキー!!!自分で稼いで生きていけるようになってから言いやがれ!ボゲェーー!」と叫んだら、部屋の窓が全開だったなんてことは1回、2回ではないわけで。
夜中にそんな馬鹿息子の志望校の過去問をコピーし終えて眠りにつけば、まともな夢なんて見られず夜中に何度も目を覚ます。
変な夢のおかげで、身体中から汗がダラダラ出ていて、あ~これが噂のホットフラッシュ、そして不眠なのね、と。私は堪忍した。
もう、これはアレだ。
更年期障害で女性ホルモンとやらが減ってるんだ。
だからVシネに出てくる哀川翔とか白竜みたいになってしまうんだ。
前置きがだいぶ長くなったが、そういうわけで私は意を決して、近所に新しくできたレディースクリニックを訪れた。
お医者様(感じのよい女性の先生)は、私の話をささっと聞くと5秒で薬を処方してくれた。
「更年期の漢方出しておきますね。一応ホルモンの値も見たいので血液検査しましょうね!」
こんな簡単に薬もらえちゃうのか。
ちょっと拍子抜けしたが、私には漢方の「加味逍遙散」という薬が処方された。
「加味逍遙散~かみしょうようさん~」:イライラしがちなあなたに
って書いてある。うん、その通りだ。
その他【冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症、不眠症】
などにも効果があるらしい。
血液検査の結果は2週間後と言われた。
今日も帰ったら紛争が起きるかもしれない。
相手が武力行使をしてきたら、こちらも応戦するしかないのだ。
私は藁にもすがる思いで加味逍遙散を飲み干した。
平和への願いと加味逍遙散
それから2週間。
私には割と漢方が合っていたようだ。
例えそれがプラシーボ効果だったとしても、なかなか調子が良い。
息子の勉強スケジュールに父親(我が家では国連と呼んでいる)が参入するなど、状況の変化もあったのだが、私と息子の紛争はかなり落ち着いた。
向こうは相変わらず強硬的だし和平交渉もできてはいないが、私にはそれらを受け流せる魔法の粉、加味逍遙散があるのだ。はっはっは!
戦闘に関係のない市民(4歳の娘)が巻き込まれるような悲劇も起きずに済んでいる。一足触発とはいえ、どうかこのまま平和な日々が続きますようにと思われる、2週間の停戦だった。
ほどなくして血液検査の結果が出た。
お医者さんはとても爽やかに言った。
「まだ更年期の症状が強く出るほど、ホルモン値が下がっているわけじゃないんですよね~。閉経はもう少し先ですね。」
え。これ、更年期じゃないんですか?
「数値は出てないんですが更年期じゃないとも言い切れなくて。漢方でイライラが抑えられているなら飲み続けてください。ホルモンの下降はいずれ来ますから。」
模試の結果を見たあとにくる目眩。
受験日までの残りの日数を数えて起きる動悸。
悪夢を見て起きてしまう不眠と多汗。
そしてこの期に及んでもまだゲームだテレビだと親の目を盗んでは勉強をしない、宿題をやったと言っては誤魔化すひろゆき、もとい息子に対するこの例えようのないイラつき。
全てホルモンのせいにしたかった。
むしろ、更年期という原因を見つけ対処して、平和的収束をしたかった。
これは、ただの中学受験のストレスってことになるのか?
逆に~、本格的にホルモン減少したらもっとヤバイってことかなのか?
でも、そのクリニックの先生がおっしゃるには、更年期障害と言われる女性ホルモンの減少は人により様々で、症状の出方も、期間も、いつ来るのかも予測はできないんだそう。
例えば、明日から突然ガクンと減る人もいるし、ゆるやかに何年もかけて減っていく人もいるらしい。急激に減る人の方が更年期障害は辛いと言われているが、それも個人差があるから一概には言えず、私も今日の血液検査は今日だけのもので、明日から突然減るということもありうるらしい。
そんな危うい時を生きているのか・・・BBAって健気。
40代後半は、子供の受験や進学などのライフイベント、自分のキャリアの見直し、親の高齢化に伴う介護など、戸惑いや責任の多い年代でもある。
そこに、自分の身体や心と否応無しに向き合わざる負えない更年期というダンジョン。
これは「change of life=転機の時」だと思わないと、正直なかなかしんどい。
とりあえず、私はあと2ヶ月、加味逍遙散に全面的に頼ることにした。
平和な日が再び訪れることを願って。
この更年期ダンジョンから解放される日が来ると信じて。