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恐怖で眠れなくとも朝は来る

かつて感じたことのない胸の痛みを感じた。

乳がんが見つかり10日が過ぎた頃、恐怖で眠れない夜がやってきた。

いつかそんな日が来る気がしていた。

私は布団に入ってすぐ眠れるタイプである。それなのに全然眠れない。
じわじわと焦りと恐怖が押し寄せてくる。実感が湧いてきたのだ。

乳がんが怖い。
本当は叫びたいほど怖い。

死んだらどうなるんだろう。

子供の頃は、『死への恐怖』を強く感じたものだった。死が身近にあり、こちらとあちらの境はあやふやだったように思う。しかし、大きくなるにつれて私の「生」の方が力強くなり同時にすっかりこの感覚を忘れてしまった。

子供の時分は、死の恐怖を感じるとすぐに父の布団へ潜り込んだ。そこには絶対的な安心感があり何物からも守ってもらえる場所であった。

大人になった私にはそんな絶対的安全地帯などなく、むしろ自分が子供にとっての安全地帯になってしまったことを布団でうずくまりながら思う。

ああ、あの安全地帯が懐かしい。

仕方がないので音楽を聴いて気を散らす。

その頃、ワンピースの映画が流行していた。

一見自信たっぷりの歌姫のウタは、心に深い闇を抱えている。ウタの「私は最強!」は宣言でもあるが私には自分自身を鼓舞するために歌っている気がする。

私は最強!大丈夫、怖くない!!
私なら乗り越えられる!

と自分に言い聞かせる。
それが返って、本当はそうでないことをありありと感じさせ惨めさ情けなさに涙が出てくる。

隣に眠る娘にバレないように声を殺して泣いた。

あれから2年が経とうとしている。
闘病のことを思い出すと今でも胸がきゅっとなるけれど、私はがんのおかげで心も体も健やかになった。

ささいなことの大切さがわかるようになった。

家族で出来合いのおかずを囲む食卓。
気づけは子供が見ていたはずの金曜ロードショー名探偵コナンを夫婦二人で見ていることの馬鹿ばかしさに笑い合う。

そんな瞬間にでもなんとも言えない幸せを感じるのである。

これってやっぱり儲け物だと思う。


[この記事を書いた人]田中 美薫江

社会的成功を収めた父をもち、どこか拗らせて育った私。起業した途端に未曾有の疫病に見舞われ、ようやく再起を図ろうとした2023年の母の日、左胸にしこりを見つける——乳がんだった。

病を経て初めて見えてきた「生きること」「家族や人間関係」「愛」。その気づきを、言葉とカタチで届けたくて、ハッピーチャームブランド「ICHI」を立ち上げる。

今日も誰かの毎日に小さな「わくわく」をお届けします。

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イスタンブール モルパザール

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