NEW TOPICS

  1. HOME
  2. ブログ
  3. COLUMN
  4. 「若い」は「すごい」が「まだ青い」。半世紀、生きてみないとわからない!

「若い」は「すごい」が「まだ青い」。半世紀、生きてみないとわからない!

この1月、新橋演舞場の市川團十郎白猿襲名記念プログラム「SANEMORI」で、ものすごいことが起きました。

ゲストとして出演したジャニーズのグループSnowManの一員・宮舘涼太が、本格的な歌舞伎の演目「義賢最期(よしかた・さいご)」で主演、歌舞伎俳優たちに見劣りしない活躍で、大喝采を浴びたのです。

もちろん、ずっと歌舞伎をやってきたわけではないので、足りないところはたくさんあります。

それでも一生懸命稽古をしてきたのだろうその所作の美しさや、必死で舞台を勤める彼のひたむきさ、上演中も日々進化していく様子を見れば、誰もが「すごい」と感嘆するのは当然です。

「義賢最期」を50年間やってきた人のすごみ

この「義賢最期」は、後半に、戸板の上に乗ったままその戸板がひしゃげたり(戸板倒し)、断末魔で階段にうつ伏せに倒れたり(仏倒れ)、ものすごくアクロバティックな演出がありますが、これは片岡仁左衛門(当時・片岡孝夫)が1965年、21歳で勤めたときに編み出した新演出です。

以降、新演出が評判を呼び、この演目は人気が高まりました。

宮舘涼太は、このうち「戸板倒し」はしっかりやりましたが、「仏倒れ」はあおむけに倒れるように演出を変えています。

それだけ難しいし、危険もあるということですね。

では仁左衛門はどうでしょうか。彼は自らが考案した演出で、2015年(69歳)まで半世紀も演じ続けているのだから、脱帽です。

単に体力的なものだけでなく、役に対する理解度など、続けてきたから身につくこと、何度もやってさらに工夫することなどが、たくさんあるのだと思います。

そして今年3月に79歳となる片岡仁左衛門は、2月の歌舞伎座で、「霊験亀山鉾(れいげん・かめやまぼこ)」という作品に主演しているのですが、これがまたすごい!

17時30分から21時まで3時間半、悪の権化のような役を、それも二役早替わりで演じ、途中は舞台上に水が雨のように降り注ぐ中での立ち回り(アクション)までやっています。

80歳になろうという人が、主役として舞台中央に立ち、一身にライトを浴び、劇場中を揺るがすような声で「ウワ、ハ、ハ、ハハハハハハ……」と高笑いし、目をひんむき、次々と人を殺していくんですよ! もう身の毛がよだつくらいの大きな悪党です。

もう一度いいます。3月で、79歳ですよ!

先月の宮舘涼太もすごかったけど、思い返すと見ているこちらが「若いから」とか「初めてにしては」「これからのびる」など、勝手に下駄をはかせて評価している部分もありました。

それが悪いということではなく、若いとは「未完成」で当然、ということですよね。

だからこそ、私たちは「これから」なんです。

若いときからいろいろやってきたことが、これから「形」になる! 青かった私たちはようやく色づき、ようやく熟して芳醇な香りをまとうようになるのです!

歌舞伎の世界では「40,50は洟たれ小僧」とよく言われます。

「歳をとったから」「若くないから」なんてあきらめないで! 人生の収穫は、これから!

(第107回「きっと歌舞伎が好きになる!」SANEMORI解説宮舘バージョン

(第109回プラス「もっと歌舞伎が好きになる!」宮舘涼太SANEMORI総括)

仲野マリ


[この記事を書いた人]仲野マリ(Mari Nakano)

エンタメ水先案内人 1958年東京生まれ、早稲田大学第一文学部卒。
映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、現在は歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、年120本以上の舞台を観劇。おもにエンタメ系の劇評やレビューを書く。坂東玉三郎、松本幸四郎、市川海老蔵、市川猿之助、片岡愛之助などの歌舞伎俳優や、宝塚スター、著名ダンサーなど、インタビュー歴多数。作品のテーマに踏み込みつつ観客の視点も重視した劇評に定評がある。2001年第11回日本ダンス評論賞(財団法人日本舞台芸術振興会/新書館ダンスマガジン)佳作入賞。日本劇作家協会会員。

書籍「恋と歌舞伎と女の事情」

電子書籍「ギモンから紐解く!歌舞伎を観てみたい人のすぐに役立つビギナーズガイド」

YouTube 「きっと歌舞伎が好きになる!」(毎週火曜16時配信)

関連記事