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あなたは人生の「どうする?!」にどんな答えを出しているか

「どうする?! 家康」を“自分事”として観る(1)

大河ドラマ「どうする?!家康」の評判が芳しくありません。視聴率も、一ケタ目前にまで落ちてきたとか。

でも、私は好き。松潤の大ファンとか、そういうことではなく、毎週家康が突きつけられる「どうする?」がいちいち心に染みて染みて。

なぜなら、その姿は、まさに「ワタシ」だから! 毎回人生の岐路に立ち、時間のない中で大きな決断を迫られ、頭の中は「どうする?」でいっぱいになるが、いいアイデアは一つも浮かばない……。ああ、それは、ワタシです!

戦国武将の「マッチョ系」武勇伝を、全否定する戦国ドラマ

今回、「どうする?! 家康」の人気がなかなか上がらない理由として、「大河らしくない」「時代劇らしくない」「マンガか?」というような声をよく聞きます。描き方が重々しくない、ということですね。

私は最も大きな理由として、「英雄を善人に描いていないから」というのがあると思います。

織田信長や武田信玄は世の人々にとって人気の武将。大河ドラマに登場するキャラクターとしても“常連”です。

これまでの大河では、単に武将として強かっただけでなく、頭もよく洞察力もあり理想も高かった、だから天下取りに名乗りを上げた、という描かれ方がなされてきました。

でも今回、彼らは「震え上がるほど強い」「容赦ない戦い方をする」という側面が非常に強調されています。

まあ、戦国時代だからそれくらい厳しい戦いは当たり前なんですけど、ドラマとして見ている者にすると、ちょっとキツイ。彼らが勝利を収めても、なんかスカッとしないんですよ。

彼らが蹂躙し、蹴散らし、殺戮した人々の痛みの方が、天下統一のために進撃の手を緩めない大軍の成功よりも大きく迫ってくるのです。

だから、信長や信玄に感情移入しようとしても、それを妨げる何かがある。「ここまでしなくても……」みたいなブレーキ。

だからといって、家康に感情移入することも難しい。なぜなら、弱すぎるから。戦略がなさすぎるから。全く武将に向いてない! これじゃ、勝てるはずない!

最初に数回で離脱した人たちは、このあたりが理由だったのではないかと思います。

そうなんです。戦国時代のドラマなのに、「どうする?! 家康」は、マッチョ系の武将の武勇伝がもたらすカタルシスを、完全に否定している!

敢えて大河「定番」の描き方を封印するとは、なんというチャレンジ精神! そりゃぁ常連ファンには受け入れられにくいはずです。 

では、脚本担当の古沢良太氏は、今回の大河ドラマで何を描こうとしているのでしょうか?

チャンピオンは一人だけ! 他の人はその陰で死んでいく

戦国時代はトーナメントです。最後の一人の他は全て敗者、それも生きるか死ぬかのサドンデス。負けたら領地は奪われ、死ぬしかない。

小国のひ弱な大将である家康は、織田信長や武田信玄ら超カリスマリーダーに挟まれ、常に彼らの深謀遠慮に翻弄されて右に左に揺れながら必死で生きています。

本当はそっちに行きたくないのに「損得を考えればこっちだ!」と周囲の圧力は重くのしかかり、自分の気持ちを引っ込めなければならないこともしばしば。

さらに、迷った末に捻り出した策は失敗することが多く、その代償は目を覆うばかりです。なんとか勝ったとしても、また次の戦いが待っている。息つく暇もありません。

誰かが一つ城を取れば、その城の城主は死ぬ。死んだ城主にも義があり志があった。そうした敗者の生き様が、回を重ねるごとに一つ、また一つ、と浮かび上がってくるのが「どうする?! 家康」なのです。

神回「氏真」の衝撃

この大河では、家康だけに限らず、「非マッチョ系」「非カリスマ系」の人物にフォーカスを当てています。

とりわけ、今川氏真を描いた回は、演じた溝端淳平の鬼気迫る表情に圧倒されました。

家康が「決断できない男」であるとすれば、氏真は「努力家だが、天才的な父親のようになれない男」。決して愚者ではないので、順風満帆な世の中ならばそれなりに業績を上げているでしょうが、危機的状況に陥った時の瞬発力がない。

「父親には敵わない」という自己肯定感の低さと、「その父親に認められたいのに、何をやっても認められない」焦りから、常軌を逸した行動に走ってしまいます。

人の上に立つ人間は、常に「できて当然」と思われる。できなければ、「ダメ」判定。経験も浅いので、部下たちをうまく取りまとめることもできず、疑心暗鬼で誰も信用できなくなり、氏真は孤立していきます。

これらは、現代の私たちに通じる悩みではないでしょうか。現代で言えば、ローカルな中小企業の二代目社長が、迷走している様子にも重なります。

偉大な父親を持ったがために自分らしい生き方ができなくなる息子の苦悩、よく聞きますよね。また、時には実力以上に構えなければ生き残れないと焦り、つい自分を実力以上に見せようとしてしまう弱小起業家にも通じるかもしれません。

失敗しても人生は続く。「どうする?」と問われているのは、私たちだ!

氏真は死んでしまいましたが、家康は死なない。ことごとく失敗しているにもかかわらず、どうにか生き残るという展開です。

家康は主人公ですし、史実として戦国時代をサバイバルしますから、ドラマ序盤で死ぬわけはありません。が、それでも「よく生き残れたな〜」と思うほど、策ははずれるし、コテンパンにやっつけられるんですよ。

辛勝できたのは、家臣の頑張りもありますが、偶然のなせるわざの時もあり、決して家康がすごかったからではない。そこがミソです。また、阿部寛演じる武田信玄は、家康を「弱い武将だが、自分の弱さを知っている」と評します。

つまり、この物語の中で家康は、武将としての才に欠けており、失敗しまくり、失敗を積み重ねるごとに成長していく主人公なのです。「しくじり先生」ドラマ版、とでも言いましょうか。

だから、最後まで見届けたい。これだけ失敗して、どうやって生き残るのか?

そして思うのです。

弱さを自覚し、失敗から何かを学び、失敗の経験を次へ活かすことができれば、私も家康のように成長できるのだろうか、と。

決断を迫られるたびに「どうする?!」と右往左往する、天才でもカリスマでもない私に、そんなふうに思わせてくれる今年の大河は、私にとっては歴史ドラマではありません。

仲野マリ


[この記事を書いた人]仲野マリ(Mari Nakano)

エンタメ水先案内人 1958年東京生まれ、早稲田大学第一文学部卒。
映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、現在は歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、年120本以上の舞台を観劇。おもにエンタメ系の劇評やレビューを書く。坂東玉三郎、松本幸四郎、市川海老蔵、市川猿之助、片岡愛之助などの歌舞伎俳優や、宝塚スター、著名ダンサーなど、インタビュー歴多数。作品のテーマに踏み込みつつ観客の視点も重視した劇評に定評がある。2001年第11回日本ダンス評論賞(財団法人日本舞台芸術振興会/新書館ダンスマガジン)佳作入賞。日本劇作家協会会員。

書籍「恋と歌舞伎と女の事情」

電子書籍「ギモンから紐解く!歌舞伎を観てみたい人のすぐに役立つビギナーズガイド」

YouTube 「きっと歌舞伎が好きになる!」(毎週火曜16時配信)

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