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だから明日は歌舞伎に行こう!

突然ですが、ドロドロな恋愛ドラマ、好きですか? それは、自分の人生が平凡だから? それとも、自分が体験したから?ウナタレ世代の皆様、こんにちは!エンタメ水先案内人 仲野マリです。


「年輪」があればこそ、ドロドロ恋愛ドラマの醍醐味を味わえる

「この人かも!」って心に決めた男に妻子がいたり、「待ってる」って約束したのに違う女とできちゃってたり。あるいは夫と別れる時、子どもを置いていかなくちゃならなかったり。逆に、連れて出たはいいけど苦労させて、「置いてきた方がこの子のためだったんじゃないか」と自分を責めたり……。

そんな展開のドロドロドラマ、若すぎると、「何その展開、あざとい、ありえん、ご都合主義で芝居みたい(芝居なんだけど)」と思いがち。

また「現在お悩み真っ只中」の時は、こういうドラマ、観ているだけでちょっとキツかったりします。フラッシュバック、トラウマ、思わずスイッチオフ!でも、ウナタレ世代にとっては、「乗り越えてきた道」だから、少し遠くから眺めることができる。

ほんとにふりかかってくるんだよね、お芝居みたいなことが。今なら少し余裕を持って振り返られる。そして自分だけじゃない、「人生あるある」だということが骨身に染みます。

ようやく鎧を脱いで、ウナタレ世代はホンネで生きられる

若い時は、みんな鎧を身につけて人生渡ってきたと思います。そして「物分かりのいい女」を演じてきませんでしたか?

あの時、「ちょっと、ひどいじゃないの!」の一言が言えたら、どんなにスッキリしたことか。あの人の前で、なりふり構わず泣きわめくことができたら、あの人は私をどれくらい傷つけたかわかってくれたんじゃないか。そう思ったこと、ありません?

数年して久しぶりに会ったら「よ、元気?」とか、向こうから声かけられて、あんなひどいことしたことも忘れて笑って言うな!……と思いつつも、やっぱり恨み言一つ言わなかったり。口角ひきつりながら、こめかみプルプル震わせて、なんとか我慢して……。

「お前が振った女は前よりレベル上がってるぞ!」を見せつけないと「負け」になる、とか思っちゃいませんでした?そんな経験積み重ねたウナタレ世代にこそ、私は「歌舞伎」を観てほしい!

出てくる女性はみんな、ちゃんと自己主張します。江戸時代の女性はみんな泣き寝入りすると思ったら大間違いですよ。

歌舞伎って実は女のホンネ満載ストーリー

今月歌舞伎座でかかっている『十六夜清心』なんて、遊女が本気で愛した男が遠くに行くと知って、ついて行こうと遊郭を抜け出していくと、男は最初「お前は戻れ」って言うの。男、何言ってんの? 遊女が遊郭抜け出したら半殺しだよ!

だから女は「私はもう帰れない。それにあなたの子どもがこのお腹に。連れて行ってくれないなら死ぬ」って迫るの。すると男は「じゃ、一緒に死ぬか」って。「じゃ」ですよ。でも、そんな男でも「一緒に死ぬ」って言ってくれると、女はうれしいんですよね。人生に切羽詰まって何も見えなくなっている時は、なおさらです。

歌舞伎は、弱者に向けて作られた応援歌です。あなたの言いたかったことを代わりに言ってくれる、こうなってくれれば、という夢を見させてくれる、だけど全ての主張が通る訳じゃない。そこにリアリティもある。

この物語でも「じゃあ、一緒に死のう」と川へ飛び込むんですが、二人とも助かるんですよ。別々に。そこから第二の人生が始まる。死んで花実が咲くものか!人生どっこい生きていく。サバイバルですよ!

ウナタレ世代はいろんなことを経験し、酸いも甘いも噛み分けられるようになったはず。だから歌舞伎に描かれているあらゆる登場人物の人生模様の、どれかに絶対感情移入できる。そして芝居を見ながら「そうそう、あの時は辛かった。でも、あの時があるから今がある」と自分の今までを、きっと認めてあげたくなると思います。

ウナタレ世代こそ、歌舞伎にハマるはず

歌舞伎は他の演劇より分かりにくい、高尚だ、知らないで行くと恥をかく、などと思っている方が多いようですが、実は大衆の味方です。

二股男、借金男、口先男、ナル男、言い逃れ男、などなど、顔はいいけどダメンズなコレクション。そして、アンハッピーエンドな物語の後には、目にも華やかなダンスレビューが待っています! 憂きことはパッと忘れて笑顔で劇場を後にできるのも、お芝居ならでは。

ウナタレ世代こそぜひ歌舞伎を! リーズナブルなお安い席からちょっと贅沢な特等席まで選べます。が、私のモットーは「初めての時はいいお席で芝居のシャワーを浴びる」こと。ぜひ一度、劇場にお運びいただき、リアルで芝居を体験してみてください。

仲野マリ


[この記事を書いた人]仲野マリ(Mari Nakano)

エンタメ水先案内人 1958年東京生まれ、早稲田大学第一文学部卒。
映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、現在は歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、年120本以上の舞台を観劇。おもにエンタメ系の劇評やレビューを書く。坂東玉三郎、松本幸四郎、市川海老蔵、市川猿之助、片岡愛之助などの歌舞伎俳優や、宝塚スター、著名ダンサーなど、インタビュー歴多数。作品のテーマに踏み込みつつ観客の視点も重視した劇評に定評がある。2001年第11回日本ダンス評論賞(財団法人日本舞台芸術振興会/新書館ダンスマガジン)佳作入賞。日本劇作家協会会員。

書籍「恋と歌舞伎と女の事情」

電子書籍「ギモンから紐解く!歌舞伎を観てみたい人のすぐに役立つビギナーズガイド」

YouTube 「きっと歌舞伎が好きになる!」(毎週火曜16時配信)

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