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21世紀を生きる君に「翼」はあるか?~朝ドラ「虎に翼」と女性たち

良妻賢母がブチ切れる時 ~第13週「女房は掃きだめから拾え?」~

戦後バラバラになってしまった明律大学の女子同級生たち。よねや香淑に続き、弁護士夫人だった梅子(平岩紙)の消息が明らかになりました。梅子さん、大庭家一族とともに家裁に登場。相続問題で。え? 梅子さん、離婚してなかったの?

梅子の「失われた10年」

それは、寅子やよねとともに受けるはずの、司法試験当日のこと。梅子は夫から三行半を突き付けられ、三男の光三郎を連れて家を出ました。

あのとき離婚していれば、大庭家の相続問題の場に彼女がいるはずがありません。なんと、すぐに見つかって連れ戻されていました。

もし、梅子一人で出奔していれば、大庭家はそのままにしていたでしょう。ただ、光三郎を連れて出たので捜されてしまったのです。そのうえ、時を同じくして夫が病に倒れてしまった。まだ離婚届を提出していなかったのをこれ幸いと、大庭家は梅子に「介護者」として家に残るよう求めたのです。梅子がそれを承諾したのは、光三郎のそばにいてもよいという条件を大庭の家がのんだからでした。

そして梅子はすべてを放棄した

介護と相続と浮気は、家庭争議の3大火種……だと思うんですが、合ってますか? 

大庭家は3つとも抱えてますね。

「浮気」に関しては、妾のすみれ(武田梨奈)が持ってきた遺言書が偽造ということがわかり、一見落着しましたが、長男は「自分が全部もらう」とうそぶくし、次男は「お母さんだけ相続放棄して」と求めるし、姑は「光三郎(にもれなくついてくる梅子)に面倒みてもらう」と言うし、もうグチャグチャ。

ここまでは想定内だけれど、光三郎がすみれを好きになっちゃうっていう展開までは、予想できなかったなー。すみれの手練手管か、それとも、未知な価値観との遭遇か……。

ブチ切れた梅子は唐突に笑うと、すべてを放棄し、大庭家と縁を切って生きることを高らかに宣言してその場をあとにします。

私はもう、家族じゃないもんね。あとは知らん!

「やって当たり前」が“良妻賢母” の評価

梅子さんはきっと、結婚してからずっと、「褒められる」ということがなかった人生だったと思うのです。舅姑の世話をして当たり前、子どもの世話をして当たり前、夫の世話をして当たり前、夫が外に女をつくっても、平気な顔をしているのが当たり前。料理もうまくて当たり前。そして、きっとどこの奥様よりも、梅子さんはすべてをきちっと難なくやりとげる“良妻賢母”だったのでしょう。

でも、親や夫だけでなく、自分の息子たちまでが「当たり前」な顔をして母親の自分を見下すようになったとき、梅子は「これではいけない」と思い立ち、自立して子どもの親権を獲得するために、明律の門を叩いたのでした。

そんな梅子さんにとって、志半ばとはいえ、「自立して生きる」梯子をはずされ、自分を離縁した男の世話をずっとさせられ、それを「当たり前」とされて生きた10年は、どれほどの忍従であったことか。

民法第730条「直系血族及び同居の親族は互いに扶け合わなければならない」

梅子はこれを知ったとき、「また私たちを縛り付けようとしている」と感じたと言っています。神保教授が「家庭」を守るために、何が何でも入れようとしたこの一条が、「嫁」に「当たり前」を強いる結果となった。慣習の明文化だったのでしょう。

最近は核家族化が進み、結婚しない一人息子が親の介護を引き受けるようになりました。そこで初めて「介護者=嫁あるいは娘」の構図が崩れつつありますが、多くの「名もなき家事」は、まだまだ妻がやって「当たり前」です。

余談になりますが、2019年7月の相続法改正で「特別寄与料」が新設され、故人の介護に尽くした人には特別寄与者として、遺言書などの配慮がなくても主張できるようになりました。今であれば、梅子は配偶者の取り分である1/2の他に、特別寄与料も加えて請求できるでしょう。……梅子の場合、すべてを放棄したから関係ありませんが。

また、もしもすみれが大庭の面倒をみていたら……これは、令和の時代であっても無理。特別寄与料を主張できるのは、6親等内の血族と3親等内の姻族が対象です。やっぱりちゃんとした遺言書が必要ですね。

お~い、扶け合っているか~い?

「今日の夕食、手作りなの? すごーい! すごくおいしい」

「ガラスがピカピカ。お母さん、おそうじの天才だね」

「布団干してくれた? ふわふわでぐっすり眠れた、ありがとう」

そんなふうに、日々の家事について、毎日声をかけられたら、もしかしたらこの世の中から家事嫌いの奥さんが半減しているかもしれません。「押し付けられた」という気持ちもなくなり、また、「じゃあ今度は一緒にやろう」も言いやすくなるでしょう。

「互いに扶け合わなければならない」って、誰かが損した気持ちになってはいけないと思うんですよね。だから、稼ぐにしても、家事や子育てにしても、介護にしても、「やって当たり前」という気持ちを一度捨てて、みんなで褒め合ったり、感謝したり、一緒にやったりしませんか?

……私も家事は苦手ですが、子どもの頃、母親から、

「あんたは、お醤油を一升瓶から(口の小さい)醤油さしに移し入れるのがとってもうまいね」と言われたのをすごくよく覚えていて、醤油さしの中身が少なくなると、率先して一升瓶から移し入れていました。ほめられるって、原動力になる。感謝されるって、人のためになっているという実感につながる。

オトコ化する寅子がちょっと心配

さて、道男に「四の五の言わずに働けよ。お前が稼がなきゃ、この家のみんなが困る」と言われて発奮する寅子ですが、彼女、最近オトコ化してません?

「愛のコンサート」が成功した夜、打ち上げの席で「うちのパパ」を歌う寅子は、とても楽しそうです。

同じ頃、猪爪家では、どんどん忙しくなる寅子を支えようと、花江が一人奮闘している。

稼いでくれる人を尊重し、「お仕事だから帰りが遅くても仕方がないよね」と、自分に言い聞かせるように子どもにつぶやきながら寝かしつけた経験、専業主婦の人ならきっとあると思います。あるいは育児休業中のお母さんとかも。

でも「お仕事」と「飲み会」って、セットなんだよなー。赤い顔してぐでんぐでんに酔っぱらって帰ってくる「稼ぎ手」を見て、何も言わないけど、何も思わないわけじゃない。家を守っている人の複雑な心境です。

これを「仕事だから」と言いいつつ「いいよな、お前はママ友とランチかよ」とか言っちゃうと、それは“地雷”です。後から亀裂に発展します。

二人とも未亡人で、二人とも子どもがいる女性だけど、二人が見ている世界は違う。寅子にそれがわかっているのかどうか。

「みんなで毒饅頭を(検証のため)作っていたあの頃と、何も変わっていない。私だけ……」

そう梅子に吐露する花江。これから猪爪家はどうなるのか。誰かがどこか無理をしていないか、ちょっと不安です。

仲野マリ


[この記事を書いた人]仲野マリ(Mari Nakano)

エンタメ水先案内人 1958年東京生まれ、早稲田大学第一文学部卒。
映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、現在は歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、年120本以上の舞台を観劇。おもにエンタメ系の劇評やレビューを書く。坂東玉三郎、松本幸四郎、市川海老蔵、市川猿之助、片岡愛之助などの歌舞伎俳優や、宝塚スター、著名ダンサーなど、インタビュー歴多数。作品のテーマに踏み込みつつ観客の視点も重視した劇評に定評がある。2001年第11回日本ダンス評論賞(財団法人日本舞台芸術振興会/新書館ダンスマガジン)佳作入賞。日本劇作家協会会員。

書籍「恋と歌舞伎と女の事情」

電子書籍「ギモンから紐解く!歌舞伎を観てみたい人のすぐに役立つビギナーズガイド」

YouTube 「きっと歌舞伎が好きになる!」(毎週火曜16時配信)

「文豪、推敲する~名文で学ぶ文章の極意」(シリーズ「文豪たちの2000字 」より)

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