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大人の片想いはなかなか楽しい

フランス語を習い始めたのは51歳の時でした。50の手習い。本当は英会話がもっと上手くなりたくて最寄駅近くの小さな語学スクールの門を叩いたのですが、その時たまたま英語ネイティブの先生がいなくて、私の担当になったのが若いフランス人の先生だったのです。校長先生もフランス人でね。

それで、3ヶ月くらいは彼と英語で話しながら「フランス語訛りの英語ってステキだわ〜」なんて惚れ惚れしていたのです。

でもよく考えたら、「何故フランス人と英語で話してるんだ? この際フランス語を習った方がいいんじゃないか?」と気づき、フランス語に転向したわけです。

私の先生は当時31歳で、南仏出身の長身のイケメンでした。料理が得意で音楽やアートにも造詣が深く話が合いました。

フランス語は大学の第2外国語で少しかじりましたが、すべて記憶の彼方。何を言われているのかさっぱりわからないところからのスタートでした。

恋愛には終わりがあるけど友だちは永遠

彼はフランスの文化を取り入れながら、わからんちんの私に根気強く教えてくれました。

そんなある日、「私、この人が好きだ」と、彼に恋している自分に気づいたのです。

それからは毎日目がハート! それはもう少女のように恋をして、ウキウキしながらバラ色の日々を送っていたのでした。

私は、「いつか彼とフランス語だけで話したい」という一心で、毎日3時間くらい辞書を片手に勉強しました。まるで受験生みたいだった。

そして気づくと片言ながら本当にフランス語だけで話せるようになっていたのです。やっぱり語学上達のカギはこのモチベーションよね。

かといって、流石の私も20歳年下の彼を自分のものにしようとまでは思いませんでした。でも最高に仲良しの友だちにはなりたいと思った。恋愛には終わりがあるけど友だちは永遠だからね。

片想いって「推し活」に似てるのかも

それで、彼とプライベートでも友だちになろうと色々画策。

「チケットをもらったから」と展覧会に誘ったり、彼の興味がありそうなお店に誘ってみたり。

そのうち彼を呼ぶためにワインパーティーを開くようになると、お料理上手の彼は自分の家で開くパーティーにも呼んでくれるようになり、

彼女ができればその彼女ごとパーティーに呼んだりして本当に仲良くなりました。

しまいには彼女が私のうちを“東京の実家”と言うまでになり、もう何がなんだかよくわからなくなっちゃったけど、みんなで仲良くすれば平和、平和。

私は片想いを大いに楽しんでいました。片想いって「推し活」に似ているかもしれません。でも、片想いは実際に会えるし、お互いの家を行き来できて、なんなら触ることもできる。

恋愛関係じゃないからフラれて傷つくこともないし、おまけにフランス語にうっとりしながらフランスの家庭料理を教わったり、ワインの蘊蓄を聞いたりできて、片想い最高! フランス人最高!

私はそれまでフランス人の知り合いがいなかったのです。フランス人の価値観を知ることは、黒船の来航に匹敵する出来事でした。

働き過ぎの日本人しか知らず、日本が1番素晴らしい国だと信じていた私の小さな価値観は根底から覆されました。世界にはこんな人がいるんだ、なんて素敵なんだろうと思った。

それで、ヒヨコが最初に見たものを親だと思うように、私に新しい世界を見せてくれたフランス人を世界で1番素晴らしいと思い込んだわけです。

それまでだって海外旅行に行ったことはあるし、アメリカ人やイギリス人の知り合いはいたけど、フランス人の感性はそれとは全然違う。

黒船が私に新しい文化を運んできて、私は開国しました。「彼氏を持つならフランス人しかない!」

友達は永遠というのは本当だった

フェロモンは同じ人に対して4〜5年しか作用しないと聞いたことがあるけど、そのせいか私の片想いも5年くらいするとあのドキドキする興奮は消えてしまいました。

大好きな人だけど、恋はしていないという感じ。それはとても寂しいことだったけど、私のフェロモンは付き合い始めた別のフランス人にスイッチしてしまったのです。

その相手は、彼とはまったく違うタイプで理想ともかけ離れていたけどウマが合う人で、その後6年半も付き合うことになりました。

片想いの彼は、あの時の彼女と結婚して2016年にフランスに帰りました。

今は故郷で念願だった葡萄畑を持ち、自分のワインを造っています。最初のワインのラベルには、約束通り私の墨絵を使ってくれたの。

毎年日本に戻って来ると必ずうちに遊びに来てくれる彼は、今でも私を幸せな気持ちにしてくれる特別な存在です。

友だちは永遠というのは本当だった。今年ももうすぐ会いに来てくれます。

やまざきゆりこ


[この記事を書いた人]やまざき ゆりこ

娘2人がまだ幼い30代前半のときに在宅ワークができるという理由でコピーライターになる。同時期に、伯母の勧めで書と墨絵を始め、以来文章を書くことと絵を描くことがライフワークに。6年前、思いつきで始めた日本画で色の世界にハマり、コロナ禍のおうち時間に身近な動物を描いていたらいつの間にかペットの肖像画家に。57歳で熟年離婚。現在はフリーペーパーのコピーライターをしながら、オーダー絵画の制作に勤しんでいる。着物好き、アート好き、美しいものが好きな1957年生まれ。

墨絵&日本画 梨水
http://risui-sumie.sakura.ne.jp/wp/

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