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アナの雪の女王 ~氷河期エルサの呟き~

凍てつくフジの城にて

フジテレビのあの会見、ご覧になった方も多いと思う。

あまりに長尺で、並んだ老齢の幹部が倒れてしまうのではと心配になるやら、これはもはやフジテレビお得意の悪のりバラエティの演出ではないかと思うやら。
幹部が一列に並び、「誠に遺憾でございます」と繰り返すその光景。
フジ黄金期を見て育った世代の一人としては、思わず「これ俺たちひょうきん族?」と、不謹慎ながら天井からバケツが落ちてくるのを待っていた。

メディアやSNSを飛び交う「テレビ終わってる」といった強い言葉。
 巨塔と化したテレビの世界と、そこに君臨したスターたちが音を立てて崩れていくのは、センセーショナルなエンタメだ。

でも、そうした騒ぎの裏で私がずっと気になっていたのは、あの人のこと。
悪意の強い報道の影で、一時は悪者のような立場に追いやられ、ただ無言で凍りついていた“あの世代の女王”。
氷河期ど真ん中世代の女子アナ・・・「佐々木恭子アナウンサー」のことである。

コンプラの夜明け前

就職氷河期という言葉は、もう若い人には馴染みがないかもしれない。
要するに「採用がない」ってだけなんだけど、新卒→正社員というコースはエリートだけに与えられた特権のような時代があったのだ。

企業から選ばれるということは、紺色のリクルートスーツで個性を隠し、画一化された中で慎ましい「自分」をアピールするという高度なスキルを持った人の特権。

当時『就職戦線異状なし』という映画があってだな、企業の面接室は戦場で、正社員の椅子を奪いあっていたんだわ。
「一度、大企業に入れば、一生安泰」のような昭和の夢を、平成の真面目な若者たちは、なぜかまだ信じていた。

美大生というやや本流からはずれていた私でさえも、即戦力しか必要とされないデザイン業界に潜り込むため、パソコン教室でイラストレーターとフォトショップのDTPスキルを身につけて就職活動に挑んだ。

企業は採用枠を絞り、派遣法の改正とともに、正規雇用は狭き門。
フリーター、ハケン、ニートなどの言葉も市民権を得て、多くの若者が非正規の立場で社会に放り出されたのが、私たち氷河期世代。

佐々木恭子アナウンサーがフジテレビに入社されたのも、その頃だろう。
過酷な就職戦線を勝ち抜きテレビ局に入局するくらいだから、聡明で容姿端麗、それでも当然のように「ありのまま」ではいられなかったはず。いかに優秀であっても、女子アナという職種に求められていたのは、知性より「盛り上げ力」、正しさより「愛嬌」、男性タレントの「お酌係」が必要だったから。

彼女といえば『とくダネ!』で長年、小倉智昭氏の隣に立ち続けた姿を、記憶している。
暴走が売りの癖の強い小倉氏を上手に転がし、的確に情報を伝える佐々木アナの安定感は、社会で揉まれる私たちの模範解答だった。

だって、私たちウナタレ世代、みんなそうだったはず。
女子社員は、セクハラ、パワハラは 「そのくらい、流して当然」という価値観。
セクハラ、パワハラを流せる器用さ、強さが、むしろ尊重された。
なにそれ寒すぎて凍りそう、不適切にもほどがある。

そんな中、佐々木アナは、結婚、出産、離婚、子育てと、いわゆる“ひと通りの人生イベント”を経験しながらも着実にキャリアを重ね、テレビという表舞台に立ち続ける。

彼女の人生、優遇されてばかりいたわけではないことは、想像に難くない。

氷の橋を、そっと架ける人たち

そんなこんなで、時は流れ、世代はZへと移り変わっていく。

あえて言えば、今の若者たちは、見事なまでに“声を上げる”という行為を恐れない。
その毅然たる態度には、拍手を贈りたくなる。
自由な時代に生まれてよかったね、と祖父母に言われてきた言葉、あれってこういうニュアンスだったのかな。
本当に良い時代になった。

とはいえ、その声は、当然だけど私たちウナタレ世代の元へと向けられることしばし。
上からの不適切発言を浄化しながら、 下からの主張には理解を示さなければならないのが、私たち世代の役割なんだろう。

上の世代がハラスメントのパラパラを踊り、下の世代がコンプラを叫ぶ、その谷間にそっと氷の橋を架け、褒められもせず、責められもせず、ただ、湿度を調整する。
カラオケに行かない部下の代わりに上司のロンリーチャップリンにつきあっていたら、そう言う立場にいつの間にかなっていた。
悲しきロスト・ジェネレーション。

それでも今日も粛々と生きる“氷河期の女王”、佐々木アナはその象徴のように思えた。

レリゴーな夜 ~まあまあ、ようやっとる~

「空気を読み場をおさめる」という、令和には役に立たない処世術を身につけて早ウン十年。
まるで私のDTPスキルみたい。これからはAIが全部やってくれるんですって。

「頑張ってるね(訳:早く仕事終わらせて)」なんて言葉は、毎日部下にかけているけれど、自分がかけられたのはいつだったっけ。

自分で自分を奮い立たせなきゃしょうがない。「アレクサ、『ファイト!』かけて」

“あたし中卒やからね、仕事をもらわれへんのやと書いた”

中卒じゃなくても仕事はもらわれへんかったのよ。
大学を出ても、正社員の椅子は遠く、派遣や契約でつなぎ、やっと勤めた会社では、ジジイのセクハラやパワハラを引き攣り笑顔でやり過ごし、子育てをしながら働けばなんらかのペナルティが付録でついてきた。
その中で氷のように自分のキャリアや自尊心を守り続けた頑張りやさん、もうアレンデール城からでてきていいよ。
雪だるま作ろう~、ドアを開けて~♪

深夜、食洗機が「ピー」と止まる音と、家族が寝静まった気配の中、
やっと訪れる、レリゴーな夜。

「次の誰かが凍えないように」と思いながら、今日もひっそり氷の橋を架けている、名もなきエルサたち。

私たち、まあまあ、ようやっとるんじゃなかろうか。

ウナギタレ子タレ美


[この記事を書いた人]ウナギタレ子・タレ美(Taleko/Talemi)

加齢応援マガジンUNATALE編集部 
姉のタレ子1972年生まれ、妹タレ美1973年生まれの更年期姉妹。
夜な夜な子供部屋で聴いていた「オールナイトニッポン」が今の姉妹の人格形成に影響を与えている。「A面」よりも「B面」、「ゴールデン番組」よりも「タモリ倶楽部」を愛する、根っからの「裏面好き」。SNSには露呈しないウナタレ世代のリアルな叫びを届けたいと日夜、奔走している。
ポリシーは「Your nudge, no tale」(ウナギノタレ)=「理屈こねてないで動こうぜ」

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