今、わたしが”娘世代”に伝えたいこと
ノストラダムスの大予言を子供のころに怖がっていた世代としては、2000年代をすでに20年以上すぎてもなお、生きながらえていることに日々感謝しているのではと思うこの頃ですが、みなさまいかがお過ごしですか。
人間50年とか言ってた織田信長の年を超え、大河ドラマの主人公でさえも自分達より遥か若い俳優さんがそれを演じるパラドクス。いやはや長生きはいいことですね。
半世紀生きていると、まぁそれなりに幸せな良いこともとんでもなく悪いこともさまざま積み重ねて、女の人生は彩りが多すぎて、混ぜるとこげ茶色にしかなっていないことに気がついたりもします。
世間からは、やれ女同士はマウンティングの取り合いだの、中年のオバサンは若い子に嫉妬してるだのと揶揄されますが。いや、それどこの港区の世界観か。
実際のところ、もうウナタレ民は若い女性たちをまるで妹や娘のように可愛く思うのであります。
同じ土俵に上がりたいなどとはつゆほど思っておりません。それがどれだけエネルギーを必要とするか、そしてその意地の張り合いがどんなに不毛か身をもって知っているから。
それよりも、どうか自分達の失敗を繰り返して欲しくないと、まさに文字通り「老婆心」を抱えております。
とはいえ、まだまだ不完全な人間で、おまけに日々乱高下する更年期ホルモンバランスに翻弄されているので、マザーテレサのごとく大きな愛で包んで上げられるほどの力量は備わってはおりません。
それなら、まずは自らの失敗を詳らかにして、それを轍のごとく避けて通る術を娘世代に伝えられたらと思うわけで。
大事なのは、“ほんとうのじぶんのきもち”
これまでの人生の中で最も難しかったと多くの女性たちが思うのは、おそらく仕事とプライベートの配分だったのではないかと思います。
男女雇用機会均等法の第一世代の女性たちが頑張ってくれたおかげで、少しずつ我々にも責任あるポジションを提供しようとする動きは確かにありました。
でもそれがかえって、そもそも頑張り屋さん気質の女性のやる気を搾取し、一方では家庭内で旧来の妻、母として期待される役割はさほど変化しておらず。
その狭間での苦労を横目でみて、結婚や出産のタイミングと仕事を天秤にかけてしまった女性たちがどれほど多いか。
「結婚はこの仕事が落ち着いたら」「彼が転勤になったら自分が仕事を辞めてついて行った方がいいのか」
さらには、「今妊娠したら、同僚に迷惑をかけそう」と、人生の大きな舵を切るタイミングを仕事への影響や他者の思いを優先して考えてしまっていました。
「タイミングをみて」というのは懸命な大人の判断力の集大成。
だけどその奥でじっと黙って潜んでいた、“ほんとうのじぶんのきもち”を優先しなかったこともあったのではないでしょうか。
経営者としても、女のセンパイとしても言わせていただけるなら、結婚妊娠出産というプライベート事由での欠員の対応は、その人自身が考えることじゃなくて、会社や社会が考えることなの。
だから自分の人生をこうしたいなと思ったら、そして妊娠出産という、本来自分でコントロールできないことが発生したらそれに、負い目を感じないで!!!!
かく言う私は、人生のプライオリティ第一位の「母親になってみたい」という完全に生物学的メスの本能のみを全開にして、3人の出産子育てを優先し、周りに迷惑をかけ、仕事を変えながらそれに対応することに精一杯で、
夫はもう要らないとばかりに捨て置いてしまったという(それも2回も)、スネにキズどころか満身創痍で生きながらえております。
とはいえ何が大事かはそれこそ人によって違うでしょう。
社会的貢献を人生の目標とする人や、キャリアにもさほど興味はないが、趣味が大事で結婚も出産もその気になれないという人もいます。
家庭運営の神!的に眩いほどに素敵な専業主婦の友人もいます。
どの生き方も正解で、どの生き方もその人らしいのです。だれかと比べて泣かなくていい。
“ほんとうのじぶんのきもち”さえ大事にしていれば。
私たちはもっと、自分のあるべき姿を求めていいし、それを訴えていい。忖度して遠慮することを、もうこれ以上下の世代の女性たちに負わせたくないのです。
ライフステージで迷ったら、オススメしたいこの映画
それでも、いつの時代も、そしていくつになっても新たな問題は起こるもの。特に恋愛や結婚、出産などのプライベーとキャリア形成、そしてパートナーシップに迷うことはあるでしょう。そんな時にぜひみて欲しい映画があります。『恋人までの距離Before Sunrise』(1995)、
『ビフォア・サンセット』(2004)、『ビフォア・ミッドナイト』(2013)の三部作です。
名匠リチャード・リンクレイター監督がイーサン・ホークとジュリー・デルピーを主役に迎え、同じ監督同じ俳優で一組のカップルの一晩の出会いから、9年後の再会、さらに9年後の夫婦関係という長い時間をかけて作り上げた名作です。
恋愛の熱量を持ってお互いの人生を紹介しあう一作目、やっと再会できて大人として恋に落ちる二作目、
そして結婚して子供を持ち、それぞれの仕事とのバランスや人生観のすり合わせにバトルする三作目までの主人公たちが生々しく、そのセリフのひとつひとつにそれぞれの人生観が映ります。
全編を通して会話だけで進んでいくこの映画に、相手にここで何を言うべきかというコミュニケーションの具体例も学べるでしょう。
そして何より、ジュリー・デルピーが夢見る大学生から、仕事と子どもが悩み事になっていく現実、その等身大の姿に勇気をもらえること請け合いです。
どうかみなさん、先を生きる女たちの迷いや、精一杯のなかでも起こってしまった間違いから、何かのヒントを得てください。きっと少しは気が楽になると思いますよ。(終)
[この記事を書いた人]渋谷 ゆう子
香川県出身。大妻女子大学文学部卒。株式会社ノモス代表取締役。音楽プロデューサー。文筆家。クラシック音楽を中心とした音源制作のほか、音響メーカーのコンサルティング、ラジオ出演等を行う。音楽誌オーディオ雑誌に寄稿多数。
プライベートでは離婚歴2回、父親の違う二男一女を育てる年季の入ったシングルマザー。上の二人は成人しているが、小学生の末子もいる現役子育て世代。目下の悩みは“命の母”の辞め時。更年期を生きる友人たちとワインを飲みながらの情報交換が生き甲斐である。
著書に『ウィーン・フィルの哲学〜至高の楽団はなぜ経営母体を持たないのか』(NHK出版)がある。
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