天から何かが降りてくる感覚
アートをやっていると時々何かが降りてくることがあります。物づくりをする人や表現者は、多かれ少なかれこの感覚を味わったことがあると思うけど、何かが乗り移ったようになって、2度と作れないようなものができちゃったりするのです。その最たるものが人形でした。
もうだいぶ以前のこと、一時期、人形作りが止まらなくなったことがあります。私、辻村ジュサブローさんの人形が大好きなのですが、あんな感じのちょっと不気味系の人形を夢中になって作っていたのです。
きっかけは、布が好きでタイ・中国・ベトナムなどの山岳民族の衣裳や着物などのハギレを集めていたこと。箱いっぱい集めのはいいけど、しまったままではつまらない。そんなとき、民族衣装を着た人形を見かけて、私もこういうのを作ってみようと思ったわけです。
針金で骨格を作り手足には紙粘土を被せて成型。上から白い縮緬をわざわざ紅茶で染めたものを貼りました。手足も針金の骨に紙粘土で肉付けしたのでちゃんとポーズが取れるのです。ボディは布と綿の詰め物。そのボディに、アジアの民族衣装や着物の生地で作った服を着せて、アクセサリーも古いビーズで作って。
座らせると高さ30センチくらい、あぐらをかかせると幅も30センチくらい取る大きめの人形でなかなかの迫力でした。当時はフルタイムで働いていたのですが、仕事から帰って家族に夕食を食べさせた後、夜な夜な2時3時まで作っていました。止まらなくなっちゃったのよ。踊り出して止まらなくなった「赤い靴」のカレンみたいに。
そういうときって、自分が作ってる感じがしなくて、何かに動かされているみたいな感覚になります。止まらないからどんどん作って、ついに置く場所がなくなってようやく作るのをやめました。でも一旦やめるともう作れない。どうやって作ったか思い出せないんです。そのくらい乗り移る。全部で10体作ったけど、手元に残っているのは1体だけ。あとはお嫁に行きました。
似顔絵の神様も時々降りてきます。こっちはもっとカジュアルなのに、神様が降りてこないときは上手く描けないのです。何度描いても似ないのよねえ。まあ、仕事じゃないからいいんだけど。その代わり、降りてくると描き出したら止まらなくなっちゃう。そして、そんなときは魂が大喜びするのです。
そっくりに描くという意味では、私が仕事にしているペットの肖像画も同じですが、これはいつでも必ずそっくりに描ける。そして何時間でも描き続けられる。日本画を一緒に始めた友だちは、集中力は90分しか続かないというけど、私は1日中でも描いていられるんです。普段は集中力散漫なくせに、このときばかりはすごい集中力を発揮します。
その気になればいつでも神様を呼べるのは、アートの神様と太いパイプで繋がっているからという気がします。
この神様と仲良しでよかった。
[この記事を書いた人]やまざき ゆりこ
娘2人がまだ幼い30代前半のときに在宅ワークができるという理由でコピーライターになる。同時期に、伯母の勧めで書と墨絵を始め、以来文章を書くことと絵を描くことがライフワークに。6年前、思いつきで始めた日本画で色の世界にハマり、コロナ禍のおうち時間に身近な動物を描いていたらいつの間にかペットの肖像画家に。57歳で熟年離婚。現在はフリーペーパーのコピーライターをしながら、オーダー絵画の制作に勤しんでいる。着物好き、アート好き、美しいものが好きな1957年生まれ。
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